第8話 元勇者 久しぶりのクエストが決まる

「性善説なんて都市伝説。罪を憎んで人を憎まずなんてお花畑。肌で実感できるよ」


「ええ、それは同感よ。あんたたちが欲にまみれた人物だってすぐに理解したわ」


 ルシフェルも腕を組みながらあきれ顔を見せる。

 とりあえずフィーナさんに事情を聞いてみた。なぜこんなことになったのかと。


「先日、とあるクエストが王国からギルドに来たんです」


「王国が請負のクエスト?」


 たまにある、民間人じゃなくて政府で決定したことで冒険者を募ったクエストが。


「はい、最近になって海底で発見された遺跡がありまして、近づこうにも魔物たちが潜んでいます。そのせいで散策出来ないので冒険者達に募集を募っているんですよ」


 なるほど、今の言葉でよく理解した。



 国家ぐるみという事は集められなければ国の政策にも影響する。だからギルドに圧力をかけて無理矢理冒険者を集めて何としてもクエストを遂行させようとすることがある。

 今回もそう言うことだろう。


「何としても頭数をそろえて欲しい。そんな通達が おまけにですね──」


「キーロフさん、実は王国から落下傘のように突然このギルドに派遣されてきたんです。当然冒険者としての経験もありません」


「突然? そんなことがあるのか?」


 普通ギルドを束ねる人は冒険者に人望があったり経験深い人を採用し、彼らの意見をよく聞く。そうしていたはずだ、彼らの協力なしにこの世界は守れないもだから。


「はい、予告も通達もなく本当に突然でした。以前のギルドマスターは冒険者としての経験も深く彼らの事をよく考えてくれた人なのですが、突然解任されてあの人が送られてきたんです」


「多分王国がギルドを支配して、自分たちの命令を何でも聞くような機関にするために送られてきたんでしょうね」



 こういつタイプの人ともよく接してきた。どう対応すればいいかもなんとなくわかる。

 とりあえず、こうしてみるか。


 そして俺はキーロフさんに接近。優しく肩を叩いて話しかける。



「キーロフさん、私からあなたに一つお願いがあります」


「何だ?」


 キーロフはキレ気味に不機嫌な表情で言葉を返した。俺は造り笑顔でとある提案をし始める。


「今回のクエストだけでいいです。クエストに同行してほしいんです」


「ハァ? 何で俺様がそんな事をしなくちゃならんのだ。俺は魔法なんて使えないんだぞ?」


 機嫌が悪そうなキーロフ、しかし俺は躊躇することなくさらに言葉を進める。


「だってあなたギルドの責任者なのにクエストを受けた事もないどころか魔法だって使用できないと聞きました。それでは冒険者の事など分かるわけがありません」


「当り前だろ。何で俺様が貴様らの事など考慮しなければならんのだ」



 ピクッとキレそうになる感情を抑える俺。


 考えてみれば彼は王国の元官僚。落下傘のように王国からこのギルドの責任者としてやってきた。当然冒険者の事など数字でしか理解していない。だから実際に冒険者達がどんな活動を行っているのか見てもらおうという事だ。

 当然ただ見てほしいと言って首を縦に振るとは思えない、作戦は用意しておいた。


「それがどうしたというのだ。なぜこの俺様が貴様たちの事を理解しなければならないというのだ」


 お前ギルドの責任者だろうが、冒険者達は貴様の言う事を何でも聞く操り人形じゃないんだぞ。


「それとも出来ないというのですか? 冒険者達に過酷な任務などを平気で課しているというのにいざ自分がそうなる事になったら逃げると言うのですか?」


 挑発ともいえるような言葉使いでキーロフに問いただす、すると彼は眉をピクリとさせた。少しは乗ってくれるかな?


「ああわかった、行きゃあいいんだろ行きゃあ。行ってやるよ。 フン! どうせ大したことはやって無いんだろう?」


 投げやりな態度ではあったが何とか首を縦に振ってくれた。


「じゃあ俺達もこのクエストに参加する事にします」


「承りました。では手続きを開始いたします」


 そしてフィーナさんは机の下から書類を取り出す。2人は書類にサインをして日程や集合場所、規約などの説明を受ける。


「日程としては3日後、現地集合で集合時間は日が昇ったころか」


 そして俺はフィーナさんから集合場所の地図を受け取り、この場を去った。

 空、日がもう傾き始めている。そういえば今日どこで泊るかまだ決めていないな……。


「とりあえず泊まるホテルを探さないか? もう日も暮れ始めてるし」


「──そうね、泊まれそうな所、探してみましょう」


 ルシフェルが首を縦に振り、俺達は周囲に宿泊施設が無いか探し始めた。

 探しながら俺はさっきギルドにいたキーロフについて話しかける。すると──。


「本当にひどいマスターね。魔王軍を指揮していた時もああいうタイプの指揮官はいたわ」


「いたのかよ──」


「あの時は規模が大きくなりすぎて隅々まで掌握しきれなかったのよ。けどそういうタイプの結末は大体決まっているのよね」


 なるほど、魔王軍は全盛期は何万もの軍勢があったと聞く。確かにいくら魔王のルシフェルでも全てまとめきるのは難しいかもしれない。


「どんなことになるんだ?」


「人心が離れ裸の王様になる。最後は味方をすべて失い消滅していく運命だわ」


 まあ、そうなるよな。ため息をつきながら今後のギルドが心配になる。あれでは冒険者達がまとまるはずがない。あいつはともかく冒険者やギルドをそんな運命にさせるわけにはいかない。


(俺が何とかしなきゃ──)

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