第3話 元勇者 魔獣に出くわす

「──わかった」


 俺は首を縦に振る。というか俺と会う前にすでに申請していたのかよ。断っていたらどうするつもりだったんだろ……。



 気を取り直して、2人はさらに道を進み始める。




「ん──?」




 森の中を歩いている中、俺は何かに気付く。それは道の先に視線を配ると見え始めた。


「あそこ、煙が立っている。何かあったのか?」


「確かに、ちょっと行ってみましょう」


 よくわからないが黒い煙が立っている。山火事か何かかな、行ってみよう。

 俺はルシフェルと顔を合わせた後、煙が立っている場所へ駆け足で直行。


 走って5分くらいだろうか、煙が経っていた場所に到着。そこで見た眼前の光景に2人は戦慄する。


 漆黒の肉体、全長は5メートルくらい。溢れんばかりの殺気、醜悪さと凶悪さを体現したような外観。

 間違いない、俺が以前この世界で死闘を繰り広げていた魔王軍の姿があった。


「これは、魔獣ね──、でも何でこんなたくさん?」



 こいつらは魔獣「ダーク・ワイバーン」。そこそこの強さを持つ中級魔獣。中級というだけであって強さはそこそこだが魔王軍の中でも残忍さ、残酷さはトップクラスの上集団で行動することが多い。


 そのため俺が勇者だった時は、こいつらに全滅させられた村などがあった。


「そう言う推理は後だ。とりあえず、あの人を助けないと──」


 そうして俺は視線を前方に移す。


 そこには魔獣の群れ、周囲の木は小枝だったかのようにバキバキと折れ、地面には隕石が落ちたようにクレーターのような物が出来上がっている。



 兵士の人達が大量に倒れこんでいる、恐らく大型魔獣の群れを何とかしようと立ち向かったのだろう。

 しかし冒険者ですら一体に数人がかりで立ち向かってやっと倒せるような敵、魔法を使えない兵士が戦ったところでどうにかなるわけない。


 さらに無残にも粉々に破壊された馬車の数々。しかし1台だけ破壊されていない馬車がある。

 そしてその前に1人の人がいた。


「大丈夫ですか?」


 俺は大声でそう叫ぶとその人物がこっちを向く。お姫様の格好をしている。灰色の髪、腰までかかったロングヘア、上品そうなドレスと顔立ち。


 そのお嬢様が俺達の存在に気付く。


「あなた達は、勇者──?」




 彼女がそう囁いたその時──。



「グォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


 そのお姫様と対峙している魔獣の一匹が大きく口を開けた、そしてその口が紫色に光り始める。


(まずい!! あれは確か光線を吐く準備段階、生身の人間がくらったら一瞬にして消し済みだ──)


 俺はすぐに右手に魔力を込める。


 世界を束ねる悠久の力、閃光となりて暗黒を打ち払え!! 降誕せよ!! リミテット・ブレイク・ソード


 するとお姫様はこっちの存在に気づいたのか視線を向ける、そして右手をそっとかざす。


 その瞬間──。



 聖なる守護の輝き、永久の守りとなり輝け


 スノー・ウォール・シールド!!



 お姫様の眼前に白いシールドが展開される。そして──。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!



 魔獣の口からの光線弾が直撃、大爆発を起こす。

 爆発の煙で包まれるこの場。


(しかし大丈夫か──)



 心の中で彼女の身を感じる俺。魔獣の遠距離攻撃の威力は冒険者でもAランククラスに匹敵する、つまりトップクラスの攻撃力のはず、生半可なシールドでは攻撃をくらった瞬間に崩壊してしまう。



 そして煙が晴れていく。



「一応無事だったか──」


 俺の視線の先には傷一つ負っていないお姫様の姿。ほっと息をなでおろす。するとお姫様がこちらに視線を向けて話しかけてくる。


「元勇者さんですよね?」


「──そうですが何か?」


 俺とルシフェルは駆け足でお嬢様の所に駆け寄る。お姫様は周囲に視線を配りながら俺達にさらに話しかけてきた。


「用事があって隣町まで馬車で移動した帰りに、突然魔獣の群にでくわしてしまいました」


「そうだったんですか……」


「私、防御に関する術式は適性があるのですが、攻撃の術式がほとんど使えないんです。報酬は後で支払いますので対峙していただけないでしょうか」


 迷いなど無かった、俺はすぐに首を縦に振る。そしてお姫様の前に立ち正面の魔獣と相対。

 久しぶりの魔獣との戦い、ドキドキするな──。



「私は後ろの魔獣を片付けるわ」


 ルシフェルは俺達の背後に立つ。まあ、ルシフェルならこんな魔獣程度楽勝だろう。

 俺の予想通り、ルシフェルも俺に負けないくらい次々に魔獣たちを撃破していく。

 考えてみれば種族値は俺より低くても、魔王専用の必殺術式があるし戦って来た経験が違う。


 しかし数が多すぎて少しイライラしているのがうかがえる。


「まどろっこしい、私がまとめて吹き飛ばす!!」


 ルシフェルは右手を上げ魔力を込め出す。右手に魔力がこもり7色に光り出す。


 あの光景、俺は見たことがある。

 まさか、あれをやるつもりか──?




 虹色に輝く閃光よ、怒りの逆鱗巻き上げ、革命の力今降臨せよ!!


<闇、電気、水、氷、炎、大地、風属性 レインボー・オーバー・エアレイド!!>


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!



 いきなりそれかよ、7つの属性を持った魔王専用の攻撃、あの攻撃で何十人の精鋭の冒険者が1度に敗れたのを思い出す。


 その虹色の巨大な光が上空に飛び上がる、そしてその光は空襲のように、豪雨の時の雨水のように魔獣たちに襲い掛かかった。

 攻撃が直撃した魔獣たちは苦しみもがきはじめ、その場をのた打ち回る。


 1分もするとルシフェルと相対していた魔獣たちは跡かたもなく消滅。


「ま、こんなもんかしら。大したことなかったわ」


 手をパンパンとたたき、すました顔でつぶやく。

 魔王だった時より威力が落ちてるとはいえその威力に俺は思わず身震いする。。

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