第4話 元勇者 久しぶりの戦い
「ま、こんなもんかしら。大したことなかったわ」
手をパンパンとたたきすました顔でつぶやく。
魔王だった時より威力が落ちてるとはいえその威力に俺は思わず身震いする。
「おいル──、エルネスト。そんな術式使ったら自分が魔王だって自己紹介してるようなものだろ」
「大丈夫よ陽君、人がいるところじゃ使わないわ。そのくらいわきまえてるわよ」
「あいつの心配はいらない、それより自分の心配をした方がいいな……」
彼女の無双っぷり、どこかほっとしながら俺は正面にいる魔獣たちに視線を移す。
グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──!!
魔獣の大きな雄たけびに地面が揺れる。魔獣の数は50匹程。
(懐かしいな……、昔はこういう事よくやった。他の冒険者が無茶だ、やめろ、逃げろと引きとめるのを無視して何十体相手に立ち向かっていった。何かわくわくしてきた──)
そして正面にいる魔獣たちに一瞬にらみを利かせた後──。
タッ──!!
疾風なる翼よ、逆境を乗り越え降臨せよ!!
テンペスト・クラッシュ!!
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
その瞬間剣の周りに竜巻のような風が装備される。そしてそのまま魔物に急接近して薙ぎ払う。
魔獣は反撃に出て攻撃を仕掛ける。しかし──。
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
勝負は一瞬、攻撃を受けた魔獣は身体をズタズタに引き裂かれ亡骸を貸していく。
時々危険を察知してバリアを張る魔獣がいたが、ガードごと魔物の肉体を真っ二つに切り裂く。
グォォォォォォォォォォォォォ!!
背後に回り込んだ魔獣が攻撃を仕掛けてきた。こういった魔獣は一般的に人間のような知能は無く、襲うときは獣のように力任せに襲ってくるのが一般的だが、まれに例外も存在する。
知能を持って相手の裏をかこうとするタイプかこいつ……。
俺はとっさに身を反転し攻撃をかわす、そして両足に魔力を込め一気にその魔獣に接近、剣に魔力を強めに込めて切り裂く。
肉体が真っ二つに分かれた魔獣は断末魔の様な叫び声を上げながら消滅。
だが安心している時間は無い、残りの魔獣たちが次々と襲ってくる。
俺は襲ってくる魔獣たちに反撃。彼らの攻撃をかわしながら次々に薙ぎ払い、振り下ろし撃破していく。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
そこだ!!
いくら残忍で凶暴でもこいつらはつりざおの餌に食いつく魚と一緒。戦略も戦術もないこいつらに苦戦するはずもなく──。
物の1分ほどで50匹程いた魔獣が消滅。
以前と比べると体がなまっている感覚はあったが能力は衰えていない。うん、これならいける。
そして魔獣たちがすべて消滅すると、長身の女性に接近して話しかける。
「これで魔獣たちはいなくなったはずです」
「そうですか、助けてくれてありがとうございます」
どこか素っ気ない口調だが、彼女はペコリを頭を下げお礼を言う。後は兵士達がどうなっているかだ。無事だといいが……、って兵士達がいない。
「兵士達が魔獣とつるんでいた可能性があるわ陽平。彼らが彼女の場所を魔獣たちに教えていたのよ。これ見て? 兵士が落としていったメモ。この森に入るまでの時間、経路、魔獣と出会うタイミング、そして撤退する経路まで詳細に書かれているわ」
「マジかよエルネスト、それでその兵士はどうした?」
「私が戦っている時に彼女を無視してしっぽを巻いて逃げているのを見たわ。ボロボロになっているのはタヌキ寝入りだったのよ」
あきれ顔でやれやれとポーズをとっているルシフェルに俺は気になった事があり問いかける。
「知っているなら何で追いかけなかった?」
当然だ、仮にも元魔王のルシフェルとただの人間の兵士、魔力を駆使すればすぐに追いつけるし勝敗なんて一瞬で突くだろう。
「おとりの可能性だってあるわ。私がそいつらを追いかけてこの場を離れた瞬間に別の部隊が現れて彼女をさらわれるかもしれないわ」
それもそうか。流石に四方八方から来る敵を相手にしながらパトラさんを守るのは俺もきつい。
魔王だった時もこいつは、いろいろな罠や策を張って俺達を苦しめていた。
それあっていろいろな事を想定していたのか──。
そしてその言葉を聞いたパトラは腕を組み、何かを思い出し始める。
「確かにそうかもしれません、兵士達は普段見掛けない人達ばかりでした」
「それはまずかったですね」
本当か、俺が勇者だったころならそんなことはあり得なかったんだけどな……。結構変わってしまっているかもしれないなこの世界。
「申しおくれました、正式に自己紹介いたします、わたくしミルブレット=パトラと申します」
ミルブレット?? 聞いたことがある名だ──、えーっとああ、三大貴族の一つの!!
パトラといえば確か俺がこの世界にいたころは家督争いの中で一番有力だって聞いたんだけれど、俺がいない3年間に何があったのか?
「わけ合って権力争いから離脱し王都へ向かおうとした矢先、こんな目にあってしまいました」
「そうなんですか……」
「偶然じゃなさそうね。パトラさんを邪魔に思う奴があなたを始末するために仕組んだとか考えられるわ」
ルシフェルの言う通り確かにその考えはありある。ってことはそういう世界になってしまっているのか、俺も気をつけた方がいいな……。
パトラもその線について考えていたようでため息をついた後馬車へと歩を進める。
「王都につけば専用の部屋も用意されていますし、私の支持者もいます。そこでお礼もしたいと思っています。行きましょう」
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