第2話 元勇者 素早さ102を取り戻す

 うぅ……。



 意識を取り戻し目を開けた。周囲を確認。


 大理石のような、平らで誰かが整備した石の上に立っていた。

 中心には幾何学模様をした柱。


 高い建物にいるようだ。建造物の外は一面森、どうやら俺達は神殿のような建物の上に立っているようだ。



 そして森の先に見えた、まるで中世のヨーロッパを彷彿させるような外見の街並み。間違いない、俺が勇者として生活していた世界だ。


「ふう、成功してよかったわ。とりあえず街に出ましょ」


 そう言ってルシフェルが歩きだし、神殿の階段を下る。俺はその後についていく。


 階段を降り切ったところで一つ気になる事に気付く。

 俺のステータスは元通りなのだろうか、変わってしまったのではないか、気になる。一度確認。


「ステータス・オン!!」


 ランク S

 体力 110

 物理攻撃 145

 物理防御 83

 魔法攻撃 70

 魔法防御 90

 速度 102


「おおっ、ステータスは以前のままだ。これなら勝つる!!」


「──何やってんの? 私にその最強の種族値をも見せびらかしてんの?」


 ルシフェルがうらやましそうにジト目で俺に話したる。


 この異世界では種族値というものがあり、先ほどあった体力。物理攻撃、部塵防御、魔法攻撃、魔法防御、速度の6つの合計値を差しているという。その種族値が一番大きい数値が600。そして種族値が600になっている冒険者を600族というのだがそれは冒険者でも一握りしかいない貴重な存在らしい。

 そして600族がランクS、そのほかの種族がA~Eになっているというわけだ。



 もちろん種族値が多い方が戦闘でも有利だ。そしてその600族の一人が俺ということだか……。


「しっかしあなた本当に絶妙な種族値ぶりをしているわね」


 ルシフェルが俺のステータスをまじまじと見ながら囁く。

 このイヤミめ、と言わんばかりの表情でのルシフェルの言葉。嘘を言っているわけではない、俺は勇者として活動している中でこの数値がいかに絶妙な配分をしているか知っている。


 まずAT145という圧倒的な攻撃力。これはこの世界ではトップクラスの数値で圧倒的。

 70という魔法攻撃も相手の意表をついて奇襲をするのに十分な数値。


「しかも素早さ102というのが本当にいやらしいわ」




 さらに102という速度。一般的には素早さが早いと言うのが100以上とされている。そして多くの俊足アタッカーや魔王軍幹部などの俺と戦った強敵の多くは速度が100と設定されている。


 つまり速度102というのはそれをギリギリで抜くという絶妙な数値の配分。僅かに上を取り他のステータスに回しているのだ。


「最後に耐久面、物理防御と魔法防御は並だけれど体力110という数値は防御型のステータスをしているわ。普通あなたのようなタイプの冒険者は攻撃面と速度が高い分耐久が低い事が多いはず、でもあなたはこの高い体力のおかげで耐久面も並以上あり簡単には落ちない強さも兼ね備えている」



 簡単に言うと、全てのステータスがカンストしたり無限というわけではないが、数値の配分に無駄が無い完璧なステータス。これが俺がこの世界で勇者として活躍していた力の源だ。


「そういえばルシフェルのステータスどうなの? まさか魔王のステータスか?」


「なわけないでしょ、あんなステータス。人間じゃあり得ないもの、この姿では肉体が持たないわ」


 確かにそうだ、確か魔王だった時のルシフェルの種族値は1040、こんな奴いたら絶対疑われる。


「とりあえず人間体の私のステータスを教えるわ。ステータスを見て笑わないでね」



 笑わないって……、そんな失礼な事しないよ。そしてルシフェルはピッと指をはじいて、自分のステータスを俺に見せる。




 ルシフェル


 ランク B

 体力 80

 物理攻撃 80

 物理防御 80

 魔法攻撃 100

 魔法防御 80

 速度 100



 一応人間の姿でもBランクはあるのか。


「人間体の私のステータスがこれ。この人間の姿じゃいつもの半分の力しか出せないわ。例によって速度は100、あなたより2だけ下。戦ったらまず勝てないわ」


 やれやれとしたポーズでルシフェルが自分のステータスを愚痴る。確かに魔王の時より半分くらい強さが落ちてるな……。


「仕方ないわね。これでなんとかしないと──」


 何とか納得するルシフェル。考えてみれば520だってBランクの強さで貴重な存在、冒険者の中でも上位10%位しかいないはず。


 そして俺とルシフェルは街の方向へ向かって道を進み始める。うっそうとした視界が悪い森の中の道。

 周囲に人気はない、それを確認したルシフェルが話しかけてくる。

 耳打ちの、ひそひそとした言葉。


「そういえばあなた今の仕組みとか知らないでしょ、特に魔法の使用について大きな制限が課せられたみたい」


「えっ、何それ。なにがあったんだ?」


 驚いた俺はルシフェルの話しを食い入るように聞く。何でも国王達がこれからは魔王との争いは無くなった。なので使い方次第で多くの人を傷つけてしまう魔法は、資格を持った人だけが使うようにした方がいいという事になったらしい。


「その資格というのが以前あったギルドなの。ギルドに名前を登録しないと魔法が使えないっていう法律が出来てしまったのよ」


「つまりまずはギルドに登録しろと? でももう俺は登録しているぞ」


 当然だ、冒険者だったんだから。まあ、登録証は無いから再発行になるって事になるだろうけれど。


「再発行しておいたわ。勇者さんが帰ってくるから再発行しておいてって伝えたの。あと私もすでにギルドに登録しているから、あとは登録証を受けとるだけ」


「あ、ありがとう……」


「それと私の名前はエルネストっていう名前を付けているわ。くれぐれも元魔王なんて言っちゃだめよ」


「──わかった」



 俺は首を縦に振る。というか俺と会う前にすでに申請していたのかよ。断っていたらどうするつもりだったんだろ……。



 そして俺とルシフェルはさらに道を進み始める。

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