第13話 真実に近づく
朝、目を覚ますと窓の外に大勢の甲冑がいて、眠気が一気に醒めた。
隣で眠っているユカの肩を揺すっていると、彼らに向かっていく和歌の背が現れる。
ニオが窓を開ける。
「さむっ」とユカが布団に包まった。
「あんたたちなあ……子供たちが怖がるだろ。昨日は六人だったのに、なんでこんなに増えてるんだ」
二十名以上の甲冑が列を作っていた。
『昨日は少数でコンタクトを取っただけだ。人数は仕方ない。これくらいいなければ、凶暴な生物を撃破することができなかったものでな』
「…………すぐに支度する、勿体ないくらいに広いんだ、少しくらい離れてくれないか」
金属音を響かせながら、列が下がっていく。
『手短に頼む。我々の神は、気が長い方ではないんだ』
全員の支度が済み、村の外へ向かう。
『……その者たちは?』
「連れていく人選に文句あるの?」
ユカの言葉に、甲冑は取り合わなかった。
「なにかまずかったりするか?」
『構わない。人数によっては馬車が足らないところだったが、四人なら問題ないだろう』
甲冑が用意した馬車に、和歌、ユカ、ニオとオットイが乗り込む。
「体調は大丈夫なのか?」
と、和歌がオットイを見て心配を口に出す。
「は、い。あの子のおかげで、大分楽になりました……」
「大変だっただろ。モーラは自分の感情に手が追いついていないんだ。思った通りにならなくて、もどかしいんだと思う……焦りもあるんだろうな。だから少し乱暴なんだ。……嫌と言わず、あの子に最後まで付き合ってくれて、ありがとう」
「…………ぁ、い」
人見知りをしているオットイは、嫌と言わなかったのではなく言えなかったのだとニオは気付いていたが、伝えはしなかった。
本当に嫌ならその場から逃げるかニオの元に駆け込んでくるはずだ。
それがなかったのなら、彼も、少なくとも受け入れている。
敵意がなく押しが強くて、会話を必要とせず一方的な言葉と行動で共にいる相手となら……彼は意外と一緒にいられてしまう。
「ぼくも……」
オットイが自ら口を開いた。
「モーラといて、楽しかった、です……」
「なら良かったよ」
照れくさそうに言うオットイ。
彼の前進に喜ぶべきなのに、別の誰かに彼自身を変えられてしまったことに、意識が引っかかる。
ニオが彼の耳元に唇を寄せて、
「オットイくん、わたし、隣にいるよ?」
「え、うん……知ってるけど」
「いいの? 手」
彼の手に自分の手を重ねた。オットイがくるりと手をひっくり返して、指を絡める。
いつもとは違い、手を繋いだことで安心を得たのは、ニオの方だった。
馬車で大陸を進むと、濃い霧が見えてきた。
管理している大陸でありながら、和歌が知らない異変である。
『この霧の先が、我々の国になります』
と、手綱を持つ甲冑が背を向けながら。
「馬車の次は船にでも乗るのか? これなら杖に乗った方が楽だったぞ……」
慣れない馬車移動に、和歌はぐったりしている。
ユカは思ったよりも長い移動時間に飽きて眠ってしまった。
『いえ、霧を抜ければ大陸と大陸を繋ぐ橋を姫さ……我が神が作ってくれたので、渡るだけです。そう時間はかかりませんよ』
彼の言う通り、徐々に霧が晴れていき、石造りの大橋が見えてきた。
距離がそう長くないことから分かるように、大陸同士がとても近い。
橋を渡り終えると、見えてくる景色があった。
――まるで世界が変わったようだ、と思うほど(実際に繋がる前は別世界だった)和歌とユカが築き上げてきた世界とはまったく雰囲気が違う。
規模で言えば、和歌の大陸よりもさらに広いだろう。
人口の数は、多いと言われていたユカの数十倍にもなる。
地平線の先まで、町同士が密接し、国の形をしていた。
「……なにをどうすればここまで世界が作れるんだ……?」
見晴らしの良い場所で馬車が止まる。
『せっかくですので、見渡してみますか? ここからは近づくにつれて下っていくことになります。また上るのも面倒でしょう』
「わっ、わっ、神様っ、すごいです、なんですかこれ、綺麗な町並みですね!」
故郷の港町と比べれば、そりゃそうである。
建造物に使っている色合いがまったく違うし、数も多い。
「人もたくさんいますよ!」
「ニオ、はしゃぎ過ぎだよ。前のめりになって崖から落ちないでよー?」
興奮は覚める気配なく、ユカの声も聞こえていないようだった。
「それにしても、やっぱりこれは贔屓じゃない? 先輩以上に広い大陸だし、こうなるとなんでわたしだけ小さな島三つだけなのかっ!」
抗議するユカを尻目に、和歌は考え込むように手を顎に添え、オットイは車酔いをしたため馬車の中で横になっている。
「先輩も贔屓だって思うよね!?」
「え? あ、ああ。そうだな――」
大陸の広さは、当然、町の発展や人々の数に影響する。
もしも誰かが目標のために仕組んで、二人に力と土地を与えたのであれば、完全な裏目になったわけだ。
和歌は規模の小さい村、ユカは狭い島には多過ぎる住民を創り出した。
なら、この国を創り出したもう一人の神は、成功例と言える?
もしくは、
「ここまで発展させたのではなく、元々発展していたのであれば……?」
突然繋がった三つの世界……しかし、中心は、ここなのではないか。
「……なんであれ、ここの神に会えば分かるか」
「見つけた」
町の中で最も大きい建造物である城、そのバルコニーから望遠鏡を覗き込んでいる少女がいた。
腰まで届く長い金髪が映える、青いドレスを身につけていた。
頭の上にはティアラが乗っており、少しの化粧を顔に施している。
もし化粧をしていなくとも、顔立ちは整っていた。
幼さを若干残してはいるが、十五、六歳くらいの年齢だろう。
彼女は背後に近づいた側近の男に、気配で気づいた。
「姫様、予定通りの時間に……」
「予定変更よ、たった一人を連れてきて。それ以外はいらない。邪魔するなら斬って捨てても構わないから」
「はっ。では、どちらの神に致しましょう?」
「違う違う、そっちじゃないから」
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