第4話 神の力
ニオとは違い、出るべきところがきちんと出ている引き締まったスタイルに沿った、ワンピースのような黒い海賊コートを羽織っている。青い海賊帽子を被り、長いブラウン色の髪を後ろで結った、ポニーテールが左右に揺れていた。
「…………誰だ、てめえはよぉ!!」
近くにいた、剣を持った男が吠えると同時、杖を向けられた彼の体が一瞬で飛散した。
光を乱反射させる、様々な色彩を持った複数の四角形の物体が宙を舞い、やがて消えていく。
男の存在が、跡形もなく消滅していった。
「……神、様……っ」
「ニオの声、ちゃんと届いてたよ!」
海賊たちが一斉に身構える。全員が臨戦態勢に入った。
「……いやちょっと待て……青い、海賊帽子、って――」
肥えた男が気付いた時にはもう遅い。
彼女の杖が光を放っていた。
「ニオを泣かせたのは誰? あ、手を挙げなくていいよ、連帯責任でみんなやっつけるから」
――そして、神の力が船上を席巻した。
海賊船が真っ二つに割れた。
真下に抜けた衝撃が海を揺らし、波を作る。オットイが乗る帆船が、波に揺られて大きく上下した。鎖で海賊船と繋がっていたおかげで、遠くへ離される危険もない。
ただ、船上では人間含め、積み荷が右往左往してまともに立ち上がれない。
何度も重たい木箱と船の壁に挟まれそうになった。
「オットイッ!」
「え」
と声に気付いた時には遅く、両手をつく彼の真横から木箱が転がってきていた。
がくんっ、と船がさらに大きく揺れ、オットイの体が地面から離れない。
反対に、木箱は跳ね上がり、宙を舞う。
落下地点には、オットイがいた。
「あが……ッ!?」
放物線を描く軌道の木箱が、バウンドを繰り返した後に、丁度跳ね上がる瞬間、オットイの体を持ち上げるように衝突した。木箱を抱えるように衝撃を胸で受け止めたオットイの体が帆船から押し出され、木箱と一緒に海の中へ沈んでいく。
荒れる海の中では身動きが取れない。なんでもこなせる妹とは違い、オットイは島暮らしでありながら、泳ぎがあまり得意ではなかった。
昔から、危ないと思われることはさせてくれない方針だったのだ。
水中に潜ること自体が久しぶりである。
やがて、口から大きな気泡が吐き出された。
……呼吸が持たない。
どっちが上で下なのか、オットイには判断がつかなかった。
抱えていたはずの木箱の存在も、いつの間にか消えてしまっている。
――意識が朦朧とし始めていた。
「見ーつけたっ」
と、水中なのに鮮明に聞こえる声――同時に、腕が掴まれた。
遅れてオットイの体を真下へ引っ張る重力があった。ふわりと浮遊感が全身に走り、無意識に体を丸めようと足を折り畳む。
「――え、うわっ!?」
彼の周辺だけ、海が抜き取られたかのように空間ができていた。
周りの海は空間を埋めようと流れてこようとはせず、真下に落下している。
ぐるりと滝が一周している光景に囲まれていた。
「……ユカ、様……?」
伸びた腕の先を見上げると、太陽と被る位置に、杖に乗って空を飛ぶ少女がいた。
彼女にぐいっと体が持ち上げられ、長い杖の後部へ乗せられる。
「あの……」
「ちょっと待ってね」
彼女の指先が伸び、オットイの額に触れた。
「――うん、怪我はないみたい。あ、でも服の耐久値が少し減ってるね……」
和風の羽織。
以前、彼女に勧められた装備を貰ってから、ずっと身につけている。
それ以来、オットイは大きな怪我をしなくなった。
「結構強めの衝撃を受けたんだね。この服がなかったら、多分、肋骨の何本かは折れてたかもねー」
思い当たる節は木箱と衝突したあの時しかない。痛みはあまり感じなかったが、抜けた衝撃は呼吸を数秒止めるものだった。
衝撃を吸収してくれていたこの服がなければ……、男にしては細い彼の体では、耐えられなかっただろう。
もしもの末路を想像して声を出せなくなっていると、彼女が注意喚起した。
「振り落とされたくなかったら腰に手を回して、しっかり掴んでて」
動き出した杖にバランスを崩し、オットイが慌てて彼女に抱きついた。
遠くに見えていた海賊船も、時間が経って完全に沈み切ったようだ。
「船長、全員縛り終えて、浜辺に転がせておきました」
「うん、ありがと」
青いバンダナを頭に巻く船員がそう報告してきた。彼以外の男たちも青を特徴とした衣服を身に纏い、チームとして統一性を出している。
ちなみに、オットイも白い手ぬぐいを頭に巻いており、彼らに憧れ、見た目だけでもと真似をしている。
本当なら青色を巻きたいところだが、彼らは海賊だ。その仲間だと思われてしまえば外的からの敵意を寄せ付けてしまうことになる。それにはニオが大反対したのだ。
神様と呼ばれる彼女を船長とした青の海賊団……海『賊』と名乗っているが、決して悪い集団ではない。
最近の海の治安が良いのは、彼女たちのおかげなのだから。
「……現、海の支配者……ユカってのは、あんたか」
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