第16話 四人目
「
ライブ終了後、スーツを着たマネージャーらしき女性に先導され、ライブ会場のスタッフルームへ案内される結花千たち四人。
先頭に立っているのは、彩乃だった。
理由は、どうやらアイドル、シノサキ・ミキは、彩乃のクラスメイトらしい。
シノサキ・ミキとは、漢字に直せば、
「元々、接点なんてそこまでないしー」
彩乃とは真逆の立ち位置にいる少女だ。実際に、話してみれば分かる。
控室にいた彼女――実姫は、なぜかひょっとこのお面を被っていた。
アイドル衣装のまま、そのお面を被るのはミスマッチ過ぎて、少し笑えた。
「なにしてんの?」
「……こ、このままで……」
彼女は声が震えていて、かなり小さい。
ステージ上ではマイクがあったとは言え、別人のように思えた。
人見知りに思えたが、それよりも酷く見える。まるで人間不信だ。
「取ってやろ」
「――こら。彩乃、やめろ」
和歌の一言に、彩乃は両手を上げて降参のポーズ。
はーい、とテキトーな返事だ。
こういう時の彩乃は、反省していないし、一時的に言う事を聞いただけである。
だが、今はそれでいい。
「いきなり押しかけて悪いな。私は、三年の立川和歌だ」
「し、知ってます……」
さすがは有名人。彼女も既知であったらしい。
「あたしは二年の帆中結花千!」
「し、知りませんでした……」
それはそうである。結花千だって、実姫を知っていたわけではないのだ。
本人は知らなくとも知られていた、和歌が例外であっただけである。
「ステージ、楽しませてもらったよ。あの曲は自分で作ってるのか?」
「はぃ……、歌詞と、作曲もしてます、はい……」
和歌は素直に驚いた。仮面を被っていながらもなお俯く少女のその多才ぶりにだ。
ステージに立つと性格が変わるのか、マイクを握るとスイッチが入るのかは分からないが、実際の彼女はアイドルとしての素質はじゅうぶんなのだろう。
でないと、ドームが満席になるほどの人数のファンを作り出す事はできない。
「えっ、いや神様ならできるじゃん。性格操作しちゃえばいいんだから」
「彩乃、黙って」
だとしても、歌詞と作曲については本物の才能である。
隣で、結花千が「ネット上の拾いものじゃなくて? 動画投稿サイトとか、歌ってみたとか口ではなんとでも言えるし」と意見を出して、彩乃がそれに同意していた。
本人を目の前にして、普通そんな事は言えないはずだが。
結花千が初対面で嫌われやすい理由の一端を、和歌は垣間見た気がした。
「実姫、だったよな? 気にしないでいいからな」
「は、はぃ……」
さっきよりもさらに顔を俯かせて、心を閉じてしまった実姫に、和歌は正直なす術がなかった。
恐らく理由はないのだろう、和歌の事を、実姫は恐がっているようにも思える。
それは実姫の問題であって、和歌が努力したところで実姫が改善しなければ問題は解決しない。
しかし、親しくなれないからと言って引き下がれるわけでもなかった。
わざわざここまで会いに来たのは、同じ学園の生徒だからではなく、この世界の神であるためだ。
いつまでもこのままではいられない。
彼女に対して厳しくいきたいところだが、和歌は足踏みしてしまう。
結花千や彩乃と違って、彼女はきちんと敬語を使ってくれている。
和歌にとってはそれが嬉しかったりするので、彼女の事は大事に、優しく接してあげたいのだ。
和歌が気づくと、隣では、ニャオが体をうずうずさせていた。
神様同士の話に割り込むのは悪いが、しかしさっきのステージを見て感動したのでその時の気持ちを伝えたい、そんな一ファンの感情が見て取れる。
ニャオはどうだろう? と和歌は試してみる事にした。
「ニャオ、いいよ。話は一旦休憩だから。実姫、この子の話、聞いてあげてくれ」
えっ、と実姫が顔を上げると、ニャオが彼女の両手をがしっと掴んだ。
「――す、すごかったです! 爆発したみたいな音なのにすごく綺麗で、わくわくして、こうっ、気持ちがたーんって、上がって! 今度、村のみんなも連れてもう一回見たいって思いました! 映像から出てきたり空を飛んだり一瞬で衣装が変わったり、すっごく楽しかったです! これからも頑張ってください!」
あっ、私、ニャオって言います。忘れたように自己紹介をつけて、ニャオは満面の笑みを見せる。
実姫は、彼女の感動に、自身の原点を思い出した。
たった一人でもいいから、誰かに認められたかった。
アイドルをやろうと思ったのは、彼女自身が憧れていたからだ。
現実では決して叶わない願いを、ここでなら叶えられると思っていた。
彩乃の予想ははずれている。
彼女は、アイドル人気に関して、誰も操作などしていないのだ。
つまり、純粋な人気なのである。
気づけば、実姫は仮面を取っていた。
自分を認めてくれている熱心なファンの一人に、顔を隠すなど、失礼であると思ったからだ。
彼女の顔は自信に満ち溢れていた。元々ある実力に、自信がつけば、堂々となれる。
今の彼女の声は、よく聞こえる。
「――ありがとう」
「い、いえ、馴れ馴れしくしてしまってすみません、実姫様……」
興奮が冷めたニャオは自分の行動を自覚し、ささっと手を離す。
忘れていたが、実姫だって結花千たちと同じ、神様なのだ。
「実姫でいいよ」
彼女のその言葉は、なぜかするっと受け入れる事ができた。
「じゃあ、実姫」
ふふっ、と笑い合って、二人だけの世界で意思が疎通された。
しかし、面白くないのは当然、結花千である。
「ニャオっ、なんでその子だけ……ッ」
と、今だけ結花千の嫉妬を遮ったのは、和歌だった。
ニャオを通じて、実姫が打ち解けたところで、本題に入る事にする。
それぞれの世界が繋がった。神が四人もこうして集まったのは、それが理由であるからだ。
「どうして、急に、繋がった、んでしょう、か……?」
「確かにいきなりだったよねー。いきなり、を言えば、この世界に入った時もなにもない大陸に置き去りにされていきなりだったんだけど」
「ある程度、それぞれの世界が発展したら繋がるようにできているんじゃないかな?」
後輩三人はそう議論する。しかし、それは終わりの見えない話し合いだ。
今するべき事ではないと、和歌がとりあえず、
「これからどうするか、を話し合うべきだろうな」
そう――これからの事。
ニャオは商人らしく、その大陸にしかない物資を、受け取りたいと思っているらしい、とは聞いている。
友好的な繋がり前提の取引であれば、もちろん大陸同士、敵対していては意味がない。
となると、自ずと神である四人がするべき行動は決まっていく。
「世界が広がった事を、自分の大陸に伝える事だな」
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