第11話 出来損ないの msk?

 朝。開口一番、未咲が不満を口にする。


 未咲「聞いてよ玲香ちゃん! わたしね、こないだ新しい布マスク買ったんだけど、

    すぐ使えなくなっちゃったんだ……ほら、これ見てよ! ひどいと思わない?」

 玲香「どうせちゃんと見ないで買っちゃったんでしょ。粗悪品も手にするわよ、そりゃ」

 未咲「そうかもしれないけど……あ〜ぁ……最近のわたし、なんかついてないかも……」


 がっくりと肩を落とす未咲。これからはしっかり選んで買ったほうがいいと思う。


 未咲「ところで玲香ちゃん」

 玲香「なによ」

 未咲「キス、しない……?」

 玲香「マスクの話したあとに、それはちょっとおかしいんじゃないかしら」

 未咲「おかしくないよ〜。ほーら玲香ちゃん、早くこっちにして?」


 そう言って、左の頬を向けてくる未咲。


 玲香「しないわよ」

 未咲「えー、けち……」

 玲香「いくらなんでも脈絡なさすぎるのよ、まったく……」


 ため息しか出ず、どうしようもない未咲をただただ憐れんで見ることしかできなかった。


 玲香「そんなことより勉強しなさい、試験も近いのに」

 未咲「やだ! 玲香ちゃんのキスがないとやりたくない!」

 玲香「駄々こねないで頂戴。わたしも暇じゃないから」


 試験対策のノートに、なにやらびっしりと書かれている。


 未咲「それは何?」

 玲香「英語のリスニングよ。あんたと違って、わたしはけっこう耳がいいから」

 未咲「(謎の『英語できます』アピールだ……)」


 自信を持たせ続けるために、あえて反論はしないわたしだった。

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