第6話 ゆるふわラップの提唱者はわたし、そうわたし

 未咲「玲香ちゃーん、わたしラップ考えてみた!」


 教室で紙を持った未咲が、目の前にいる。


 玲香「見せてみなさい」


 いきなりこう始まっている。


 ――


 へい よー

 ゆるふわ ゆるふわラップの鉄則は そう鉄則は

 ひらがなーを多用 することー だよー


 のばしぼうもつかってみーてー ねー


 ――


 玲香「……」


 いろいろ突っ込みたいけど、ひとつ言うとするなら。


 玲香「続きはないの?」

 未咲「ちょっと、考える元気がなくなっちゃって……」

 玲香「最近休めてる? はい、いつもみたいに踊ってみなさい」

 未咲「わたしってそういうふうに見られてたんだ……」


 実際に踊ったためしはないのに、無茶を言ってくる玲香ちゃん。

 踊ったら元気と思ってくれるのかな……そんなわけないよね。


 玲香「コンテンポラリー――」

 未咲「踊らないよ?!」


 そこに、春泉ちゃんがやってきた。


 春泉「ハウディ!」

 玲香「春泉のほうが元気じゃない。ほら、未咲も元気出して」

 未咲「無理を言わないでよ〜……ちょっと寝るね……」


 夢の中でもよーよー言っている未咲。よほどお気に召している様子。


 玲香「春泉はラップとかしないの?」

 春泉「うーん……ハルミはやっぱりカッコいいコがすき」

 玲香「あっそ……ごめん、それだけ」

 春泉「……レイカ、なんかきょうオコってる? ハルミ、なんかワルいことしたかな……」

 玲香「怒ってなんかないわよ、いつもどおりじゃない」

 春泉「ハルミにはオコってるように見える! ホントのこと言ってよ、レイカ!」

 玲香「きゅ、急にどうしたのよ春泉……少し落ち着きなさい」

 春泉「やだ! 最近のレイカ、やっぱりヘンだよ……」

 玲香「どこがヘンなのよ、言ってみなさい!」

 春泉「ほらぁ、やっぱりオコってるよぉ……」


 こんなに弱々しくなる春泉も珍しい。

 ……まぁ、確かに最近のわたしはかなり調子が悪い。

 ギターのフレットが押さえにくくなって、それで苛ついているんだと思う。

 といっても些細なことだし、あまり表にも出していないつもりだったんだけど……。

 春泉には、どうやら伝わってしまったらしい。


 春泉「いつもみたいにクールなレイカがいいの! こんなのレイカじゃない!」


 こんなことで、と思うかもしれないけど、春泉にとっては大きな問題らしい。

 すべて汲み取ってあげたいけど、そうもいかない気がしてる。


 春泉「んもう! この左手、さっさとハルミにたべられちゃえ!」


 ちょっとよくわからない発想だけど、これが春泉にとっての正解らしく……

 かぷかぷと小動物のように噛み付いてくる。存外わるくもなかった。


 未咲「おやおや? ふたりして何かわたしに秘密のじゃれあいですかな?」


 いつの間にか起きていた未咲が、そんなことを言った。

 じゃっかんの気持ち悪さを覚えつつ、半分くらいは認めざるを得なかった。


 未咲「よーじすいずあいすくーるわー

    えむしーみさきっ

    ふたりのじゃれあーい みてたわたーし

    これがほんとのあーい わたしもまざりたーい」

 二人「「ダメ」」

 未咲「そんなぁーっ、わたしも混ぜてよー!」


 涙目で無理矢理にでも抱きつこうとするわたしだった。

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