第5話 未咲の小学校時代

 小さいころ、よく親に叱られる子だった。


 母親「未咲! また靴を脱ぎっぱなしにして!」

 未咲「えへへ、ごめんなさい……」じわっ

 母親「笑ってる場合じゃないでしょう?! もう……

    かりにも女の子なんだから、もっとちゃんとしないと将来苦労するわよ?」

 未咲「えっへへへ……」ぴちゃぴちゃ

 母親「本ッ当にしょうがない子なんだから、まったくもう……

    あーっ! 未咲! あなた、またおもらししたんでしょ!

    音と匂いでごまかせてないのよ、もー……ほら、ちゃんと片付けて!」

 未咲「は〜い♡」しぃぃぃぃっ……


 怒られてもうれしそうに失禁までするわたしに、お母さんはしょっちゅうしびれを切らしていた。

 当時はお母さんの言っている意味があまりよくわからなかったけど、いまなら少しわかる気がする。

 だけど仕方ないよ……あのときを境に、おおやけにも女の子らしくなれなくなったんだから。


 ♦


 わたしはけっこう区別しなくて、男の子ともよく遊ぶくらいだった。

 寒いのにスカートを履いていたりして、けっこうおしゃれさんだった。

 下着が見えていてもお構いなしで、よく困らせていたっけ。


 男子「未咲、またおまえパンツみえてるぞ……」

 未咲「えっ? あはは、そうだね、ごめん……」


 顔を赤くする男子に指摘されて、素直にあやまるわたし。

 言われてもすぐもとに戻ってしまって、なかなか手がかかる子だった。

 そのせいであそこが冷えて、しょっちゅう失禁しちゃったりしてたいへんだった。


 未咲「あっ……またおしっこもれちゃった……」


 すこしくらい涙目になっても、持ち前の元気さで立ち直るのは早かった。

 あのことを経験するまでは……。


 ♦


 それは、とある授業中に起こった。


 先生「免疫力を高めるには、ビタミンA、C、Eなどをとるのがよいとされています」


 懸命にノートをとるクラスメイトたち。そんななか、ひとりなにかと戦っている女の子が。


 未咲「(どうしよう、おしっこ……トイレいきたい……)」


 この日もおまたを開放的にしていて、その罰があたった。


 下を向いてもじもじしだすわたし。あろうことか尿意をもよおし始めていた。

 だけど授業は始まったばかりで、とても言い出せる雰囲気じゃない。

 いま言ったら、『なんで休み時間中に済ませておかなかったの?』って絶対言われるだろうし。


 未咲「(このままさいごまでがまん、しなきゃだめ……?)」


 そう思うと、冷や汗がとまらない。早くも涙がじんわりと浮かんでくる。

 おしっこしたさもどんどん高まっていき、気持ちはあせるばかり。


 未咲「(がまんしないと……はぁ、はぁ、んんっ……でも、できるかなぁ……)」


 すでにあきらかに様子がおかしいわたしに気付く人はいない。

 みんなちゃんと授業していて、ただ時間は経ち、尿意はふくらむばかり。


 未咲「(いわなきゃ……でも、おしっこなんて恥ずかしくて言えないよぉっ)」


 いちおうそのへんの恥じらいは(このころはまだ)あったので、

 そのせいで余計に『トイレに行きたい』だなんて言えなかった。


 先生「野菜や果物、それとお肉にお魚、あとお米とかもバランスよく摂ることもたいせつですね」


 先生がなにか言ってるけど、それすらよく聞こえなくなっていった。

 いよいよ、その瞬間が訪れようとしていた。


 ♦


 身体の動きがぎこちなくなり、腰のあたりを絶えず動かしていないと

 おしっこが我慢できなくなるほど、わたしは切羽詰まってしまった。


 未咲「(はやくおわって……おしっこ、おしっこぉ……はぁぁ、んっ……!

     おしっこしたい、おしっこ、いっぱいトイレでしたいよぉっ……!)」


 ふー、ふー……といった息遣いが誰かに聞こえないか気になって

 すごく恥ずかしくなった。いつもならおしっこが少し漏れたくらいで

 こんなにも恥ずかしい思いをすることなんて、めったにないのに。


 未咲「(だめっ……おしっこ、もうがまんできない……でちゃうよぉっ……)」


 おまたに手をぐににっと押し当てて、本格的ながまんの体勢に入った。

 下半身の筋肉も目一杯ひきしめて、絶対にもらさないようにしようと一生懸命だった。

 それを何回か繰り返していると、少しずつではあったけど波がひいていった。


 未咲「(よかった、まだがまんできそう……)」


 そう思ったのも束の間。教室をつつんでいる暖気がむしろわたしを苦しめた。

 もちろん寒いので、暖房器具としてストーブを使っていて、これが厄介だった。


 未咲「(このきょうしつ、やっぱりあったかいなぁ……)」


 気持ちがそっちに逸れてしまった結果、


 ぶるるっ……しぃぃ〜っ


 未咲「(?!)」


 パンツからわずかに聞こえてくる音に、自分でびっくりしてしまった。


 未咲「(まさか、さっきの音って……)」


 そう思いこっそり確かめた。間違いなくやってしまっていた。


 未咲「(もう、ほんとにがまんできなくなっちゃったんだ……)」


 心の中では焦るけど、やっぱり言い出せないわたしがいて。


 未咲「(ここでわたしがおもらししたら、みんなどう思うんだろ……)」


 わたしのおしっこは、とってもいい匂いがする。

 両親は病気を疑ってわたしを病院に連れて行ったけど、原因ははっきりせず。

 原因はいまだ謎のまま。あいすくーる七不思議のひとつに数えられている。


 だから、においで嫌いになる人はいないはずだけど、それもよくわからない。


 未咲「(ほんとうは、おしっこってとってもくさいんだよね……)」


 わたしは念のため、自分のおしっこの匂いをあらためて確認した。

 やっぱりいい匂いがする。きょうはいちごのかおりがした。

 でも、いくらいい匂いがするからといって、我慢できずにおもらしするなんてもってのほか。

 だから、わたしは精一杯おしっこを我慢した。

 少しずつ漏れだしていっても、全部は出さないぞ、と気持ちを強くもって我慢し続けた。


 だけど下着はどんどん濡れていって、もう引き返せないところまできてしまった。

 おまたのぶぶんはすっかり冷えてしまって、風邪をひきそうだった。

 そこから漂ういい匂いに安心してしまいそうで、それにも必死で耐えた。


 未咲「(うぅ……おしっこもれちゃう、おしっこもれちゃうよぉっ!)」


 そう思ったときだった。


 未咲「くしゅん!」


 精一杯我慢したけど、小さくくしゃみをしたところでなにかが弾けてしまった。


 未咲「(あっあっあっ、やだ、やだ、あぅうぅぅっ! んんん〜〜〜っ!

     はぁはぁ……んんっ! くぅ、っ……まだでちゃだめ、あぁっ!

     だめっ、もうだめぇっ、おしっこ、もうがまんできないよぉっ!)」


 きゅうに鼓動が早くなり、いきなりクライマックスに駆け上がってゆく。

 肩を上下に呼吸しながら、それでもなお懸命におしっこを我慢しようとする。

 さんざん泣き腫らしたあとは涙がぼろぼろと零れて、ほとんど太ももに落ちていく。

 もうもたないと悟ってからは、時の流れはかなり早く感じるようになってしまった。


 未咲「(――いいや、もうぜんぶだしちゃお……)」


 決意が固まって、ようやく落ち着きが生まれた。

 わたしは深く息を吸い込み、そしてゆっくりおなかに力を入れはじめた。


 未咲「ん、んっ……」


 はじめはしゅ、しゅ、しゅうっ、と短く何回かにわけて出していった。

 それにおどろいたわたしがおまたに手を反射的にはさんだら、

 そこから一度だけ、じゅぅぅぅぅっと、いきおいのあるおしっこが出た。

 その一瞬だけは、なんだかすごく開放感があって、思わず目を丸めた。


 未咲「(すごい……おしっこするのがこんなにもきもちいい、だなんて……)」


 これまで我慢したぶんがいっきにあふれたんだし、そう思ってもおかしくはない。


 未咲「はぁぁ、っ……」


 しゅいっ、しゅぅ、しゅっ、しゅい〜〜〜っ……

 おしっこの音がさらに強くなる。誰にも聞こえませんように、といのり続けた。


 それから先のことは、よく覚えていない。

 悲しいのかうれしいのかよくわからない表情になって、おもらしの快感に身を委ねていたのかも。

 ぱんつがまた湿ってあたたかくなって、それはおさえている両手にも確かに伝わっていたと思う。


 女子A「ねーだれかいちご食べた?」

 女子B「しらなーい」

 玲香「(これってもしかして、未咲ちゃんおもらししてるんじゃ……)」


 ちいさな身体の中であっためられた黄色いおしっこがどんどん出てきて、どうにかなっちゃいそうだった。

 匂いも広がって、教室全体がいちごのかおりに包まれることに。


 先生「あらあら、誰ですか? 甘〜いいちごの香りを漂わせているのは……

    先生も好きですけど、いまは授業中ですよ。見つけたら没収しますからね〜」


 言いながらもそれ以上追及はせず、なんだかんだでやさしい先生だった。

 クラスメートたちもそれでどっと笑い、終始和やかに進行していった。


 幸せな空間だったかもしれないけど、わたしひとりだけずっと恥ずかしいままだった。

 おもらしの事実にそのとき誰も気付いてくれず、それはそれでちょっと寂しかった。


 ♦


 玲香「いつ聞いても強烈ね、あんたのおもらしエピソードって……」

 未咲「えへへ……でも玲香ちゃん、うっすら気づいてたなら助けてくれてもよかったのに……」

 玲香「確信が持てなかったのよ……あの頃のあんた、ずっとそそっかしかったから」

 未咲「そっかー……でも、そのおかげでおもらしするの、だーい好きになってよかったかも♬」

 玲香「やっぱりそうなるのね、あんたって……ほんと呆れるわ……。

    えっと……いまは自分でそれを飲んだりもするのよね?」

 未咲「うん、だって甘くて美味しいんだもん」

 玲香「はぁ……よくやるわよ。わたしがかりに未咲でも、絶対にそうしない自信があるわ」

 未咲「その自信はどこからきてるのかなー? わかんないよー?

    玲香ちゃんだって、何か運命が変わったらわたしみたいになっちゃうかも」

 玲香「ありえない話をしないで頂戴。わたしは未咲にはなれないから」

 未咲「それはそうと……きょうも飲む? わたしのおしっこ♡」

 玲香「……そうさせていただくわ」


 一枚ぺろっとめくって、ご丁寧にお誘いしてくるわたしの幼馴染。


 未咲「照れなくてもいいのに……」

 玲香「べ、べつに照れてるわけじゃ……」


 すこし内股ぎみになって、玲香ちゃんは脚をわずかばかり濡らした。


 未咲「我慢、できなかったんだね……✵」

 玲香「……」

 未咲「もっと漏らしてもいいんだよ?」

 玲香「……そうさせていただくわ」


 本日二回目の『そうさせていただくわ』が聞けた。

 そこでほっとしたのか、玲香ちゃんの目から涙があふれてきた。


 未咲「あっ、ほんとに我慢してたんだ……あはっ、なんだか安心した♬」


 教室がみるみるうちに玲香ちゃんの匂いで満たされていく。

 ずっと目を逸らしがちな玲香ちゃんに、胸をときめかせるわたしだった。


 未咲「ねぇ玲香ちゃん……わたしのおしっこ、飲んでくれるよね?」


 赤ちゃんがミルクを飲むみたいに、玲香ちゃんは吸い寄せられていった。

 パンツは穿いたまま。直接飲むのは、ちょっと恥ずかしいんだって。

 大丈夫。わたしのここはこう見えても清潔。みんなは真似しないでね。


 玲香「相変わらず美味しいわね、あんたのおしっこって……」

 未咲「そりゃそうだよ、だって……わたし特製ブレンドなんだもん☆」


 パンツが見えていてもあっけらかんとしている。良くも悪くも未咲らしい。

 勝ち誇ったように笑う未咲に、わたしは甲斐甲斐しく付き合うのだった。

 調子はすっかり元どおり。おしっこの味も復活し、楽しい時間を過ごした。

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