第12話
「何隠してんだよ」
杉浦の瞳は私の心までも突き通すぐらいに真っすぐだった。私は言いたくなかった。この世界の真実を。自分の心が見えないように何枚もの分厚い布で覆う。問い詰められてるのに、自分がとんでもない人間なのに、それでも逃げる。これでは本当に犯罪者ではないか。
「何で言わないんだよ」
もう私の周りには壁しかなかった。
ただ地面を見つめていた。その時違う声が聞こえた。
「ちょっと君たち」
重たい声。そして漫画で罪を犯した少年などによく警察がかけている言葉が聞こえた。
「何ですか」
すかさず盾を向けたような杉浦の声が入った。
「犯罪言葉を使っているようだな」
「犯罪言葉⁉」
心臓が跳ね上がった。やけにおかしな言葉だ。それこそ、聞いたことがない。
「知らないのか」
問い詰められてまた小さくなる。
私はそんなもの知りません。って、言えない。
「君いくつだ」
「……」
そこに杉浦が続ける。
「あの、証拠ってないんですか」
「それは法律で言えないんだ」
「監視されてるんですか」
「言えないと言ってるだろ」
男の警察官は語勢を強くしていった。その大きな体が体当たりしてきたら本当に倒れてしまう。もう警察官を見てられなかった。
「いつ、俺たちが犯罪言葉を言いましたか」
「続きは署で話をしようか」
「ちょっと待ってください。証拠もないのに行けません」
必死で対抗する杉浦に、警察官は小さな、でも後ろに何か隠すような低い声で言った。
「こんなとこでできる話じゃないんだ。ついてこい」
私たちは三人の警察官に囲まれていた。分厚い手に掴まれた。振りほどきたくなった。でもそんな力もなかった。そして背中を強く押される。早く罪を償えと言うように。
私は次第に壁に押しつぶされていく。もう一層のこと潰されていいと思った。どんなに苦しくてもいい。
苦しむのが私だけなら。
コトバ天秤 東雲 紗來良 @sakurashinonome
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