第11話

 気持ちが一転した杉浦からの質問攻めが始まった。

 あの言葉はなんだ。誰が作ったんだ。どこから生まれたんだ。

 まるで異世界から来た人間が話す言葉だと言うように聞いてくる。

本当ならみんな使っている言葉なのに。

「ハッキリしろよ」

 杉浦の口調は次第に強くなっていく。簡単に答えられない私と気になって仕方ない杉浦。この両者は言葉の天秤にかけられていた。

「そういえば授業で習った法律って春山の言葉の事なのか」

「え?」

 そう言われてこの世界が変化している部分をもう一つ見つけた。

 それは、「人を不愉快にする造語はつくってはならない」ということだった。私のしていることは、法律に反しているということになる。

「ねえ、それってどのくらいの罪になるの」

 声が震えていた。まさかここで犯罪者になるとは思ってもいなかったのだから。

「習ったばっかだろ」

「ごめん、度忘れしたんだ」

「確か……」

 杉浦の瞳は斜め上に移る。

「確か……懲役20年、あるいは300万円以上の罰金のはず」

 逃げたい……。真っ先にそう思った。私が作り上げた世界……。私は私の首を絞めている。これは天罰だ。ただ、軽率な行動をした私への天罰。言葉をおもちゃのようにして扱ったのだ。

「お前、大丈夫かよ」

 杉浦は何も知らない。この世界の中のどこかに私の教えた言葉が存在していると思っているのだから。本当の世界にならあるのに、ここにはない。

「私、どうしよ……」

「お前もしかして」

 なんとなく、私の心の内が見えたようだった。

 私たちの生きる世界が違っていようとも。

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