第10話
「……ごめんね……」
この声は、真実の気持ちを伝えようと思っているものだ。でも、軽く聞こえていないだろうかとどうしようもなく不安になってしまう。
杉浦は力のない目を歩道橋の真下に移した。
「見ろよ……」
そう言われて私は目線を同じ方向に落とす。無機質に流れている車だ。
「導かれた方向にみんな走っている。何があるかも分からない癖に、ただ漠然と。そんなんでいいのかなって」
何があるかも分からない。なのに私たちは真っすぐ延びる糸を手繰り寄せながら歩いている。この世界で生き始めた私のようだ。
「時にはその導かれている道から外れたっていいと思うんだ。でも、どうやって脱線すればいいのか、分からない……」
彼は、自分の生き方を探していた。私が奪ったものを、もう一度一から作り出そうとしている。私は私が小さく見えた。友人一人の人生を狂わせて何もできないのだから。
「杉浦……」
「何?」
改めて彼の顔を見て心臓が握りつぶされた気分になる。
「私は、あんたよりも最悪な人間なんだ。誰よりも底辺を歩いているような奴で、みっともなくて……。杉浦は死んじゃいけないよ、そんなの私が――」
「ねぇ」
突然杉浦は私の言葉の糸を切った。そして怪訝な顔をして言った。
「その、サイアクとかミットモなんたらって……何……」
「え?」
そうだった……。何て説明すれば良いのだろうか。
「私は、……その、人間として、駄目なやつ……」
「ダメって?」
「えっと……ゴキブリ以下……みたいな」
一瞬時間が止まった顔をする杉浦。
「じゃあ、俺もその……サイアクってわけか?」
「いやいやいやいや!あんたはそんなんじゃ」
杉浦は歩道橋から身を乗り出して吸った息を音に変えた。
「俺は最悪な人間だあああ!」
そして体内から不純物を吐ききった爽快感溢れる顔を私に向ける。
「俺は、最悪だから、出来ない事とか、……その駄目なとことかあるんだよな」
これはこれでよかったのか。
嫌な言葉とはこれほどまでに人間の不純物を取り除くなど思ってもいなかったのに。
魔法の言葉とやらに変わってしまったのが、やけに気持ちが悪かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます