第7話
私は重たい体を起こして、漠然と本や辞書を手あたり次第にめくっていった。
心は捨ててきたが体はこの状況を何とかしようとしていた。前の世界の名残なのか。そうだとしたらありがたい。
「綺麗だな……」
汚れのない文字の羅列を目で追いながら、ページを手でそっと撫でた。無気力な自分の存在が腹立たしい。
もう一度入力画面を開く。一文字打っては消し、一文字打っては消しを何度も繰り返した。
「何だったっけなあ……」
そんなことしかつぶやけない。
そのまま、この世界になっての2日目を迎えていた。
「あら、今日は早いのね」
母の声。透き通った、私の大好きな声。
「昨日はどうしたの。起こしても起きないし学校から連絡はくるし」
「別に、言っても変わらないから」
「ほら、そういうこと言わずに。お母さんに言えば何でも大丈夫だから」
「そういう言葉いいから」
母は不思議そうに言った。
「大丈夫とか、別にいいって。いってきます」
もうこの世界で生きるなら、どうなってもいい。
少しだけの朝の人の足音を聞きながら、ぼんやりと歩いていた。この前みたいに勝手に歩いてくれて、私をどこかへ連れてってくれる。どうせなら行く場所は学校じゃなくてもいい。
ああ、いなくなりたいなあ……。
「大丈夫ですか?春山さん」
「はい!もう元気です!」
「よかったです」
そしてみんなは口々に「本当によかった!」と言って拍手をした。満面の笑みで。取り敢えず私は仮面を被ることはできる。この世界で生きることを選ぶこともできる。だってみんな幸せそうなんだから。杉浦は相談にのってあげれば何とかなると思うし。
もういいか。疲れた。
「今日もみんなに会えてうれしいよ」
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