第6話
一瞬で返信はきた。
「コトバのデータ消去は簡単ですが、機械ですので追加を望まれるのであれば指示が必要になります。入力してください。」
「は?」
画面には枠が5つある。その中に復活させたい言葉を入れろというものだ。
小指一本で簡単に持ち上げられるものだと、思っていた。
「え……、何だっけ……。なんて言うんだっけ……」
脳内はいつの間にか誰かの手によってあらゆるものを消去されていた。違う。私が消去した。どこかに残存してないだろうか。いつの間にか複製していたなんてことは。
「お前いつまでやってんだよ」
「違うの!あーもう!」
「どうしたんだよ、落ち着けって」
「ねえ!杉浦さ、言われて嫌な言葉言って!」
「そんなのねえよ」
「あるよ!」
「そんな、俺生まれてからそんなの聞いたことねぇよ……」
「噓……」
「じゃあ何があるんだよ」
あれ私って、どうやって生きてきたんだっけ……。なんて人に言われてたっけ。どうやって感情を濁して、どうやって混ぜ合わせて、吐き出したんだっけ。なんで泣きたいと思ったんだっけ。
「おい、大丈夫かよ……。何があったか分からないけど、元気出せって……。」
「私って……。私って本当に……。私ってどういう奴に見える?」
「え、どういうって……」
「今の私って……。ね……」
こういう奴をなんて言ったっけな……。
足先から頭のてっぺんまでの力が地球の底に落ちていった。
「もういい。ごめんね、杉浦」
足が、どこか知らない場所に私を連れていく。今歩いている場所すらも分からないような感覚だった。誰かが問いかけている気がした。「どこに行くんだ」って。分かるわけない。「待てよ」って。足が勝手に動くんだから。
気が付くと自分のベッドで寝ていた。
ああ、生きてた。
小刻みに震える手で自分の体を抱きしめる。涙は出なかった。今の私はただ奇妙な動きとする女子にしか見えないだろう。淡白な……――な人間。
もう私がどのような人間なのか、そんなことは地の底に捨てていた。
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