第5話

 杉浦は短く切った髪をかきながら重たい声で話し始めた。

「俺はもうすぐ人間をやめる」

「は、何言ってんの」

「もう何も出来ないんだ。部活ではレギュラー外されて、そっから頑張ったけど声もかけてもらえなくなって。完全に居場所なんてなくなったよ……。サッカー一本で生きていきたいからここに入学したのに」

 杉浦は力なく窓の外を見た。私も彼の視線につられて目線をうつす。そこには歯をむき出しにして笑いながら、体育の授業をしている入学したばかりの一年生たちだ。「人間って、いつの時代から、綺麗な言葉だけを並べて生きてきたんだろうな」

 それ、私……。この世界作ってしまったの、私……。

 心臓の上に乗っているダンベルの重量が増していく。

「俺、泣けなくなった。みんなに何を言っても、大丈夫だってしか言われなくて。そんなに軽い世界なのかなって。だからもう、どうでもよくなったんだ」

 どうでもいい……。もしも、私がこんなことをしなかったら、杉浦はずっとレギュラーとして活躍していたのだろうか。私はスマホを見た。漆黒のパネルにうつす自分の無気力な顔が情けない。そんな自分を叩きのめすためにもスマホを起動した。

「ごめん杉浦。やっぱり、少しだけ何もなかったことにしてほしい」

 もう彼は、黙ったままだった。

 昨晩、ほんのちょっとの気持ちで送ったメッセージにもう一度返る。そして全神経を集中させて指を動かした。

「もう一度、汚い言葉も綺麗な言葉もある世界に戻してください。」

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