よくなくない? なくなくない?


 「二重否定」

 日本語には二重否定なる表現方法があります。どのようなものかといえば、

・見ずにはいられない=どうしても見てしまう

・食べられないことは無い=食べられる

・バグのないゲームはない=すべてのゲームにバグはつきもの。

 などといったまどろっこしくて煩わしいったらありゃしないような、回りくどい表現です。二重否定は否定を否定しているので、結局はただの肯定文と意味がほぼ同じになります。ただ、上二つは全くその通りなのですが、三個目だけは二重否定にした方が効果的で、意味もすっきりしてきますね。このように、二重否定表現にも一長一短はありますので、うまく使い分けることが「良い文章を書く」コツになります。



 「若者言葉と二重否定」

 そんななかでオトナたちの頭を悩ませているのが、若者言葉の表現、以下二つです。

1.そんなのやったら

2.え、彼普通にブサメンじゃ

 どっちも似ているようで、実は二重否定は片方だけとなっています。それはどちらかというと、1.が二重否定ではなく、2.が二重否定+否定(ない)という構造になっています。

 これはどういうことかといいますと、実は一見二重否定に見える1.は「よくないんじゃないの?」を縮めた形なのです。よくないんじゃないの?→よくない(んじゃ)ないの?→よくなくない? といった変化でしょう。だからこそ、形式上は二重否定でも、この表現は決して肯定の意味ではなく、否定の意味を持った表現であることがわかります。

 たいして2.は、単純に二重否定ということである程度の説明がつくのですが、この場合はさらに否定がついているので、例えるならば次の数式の様に

-x・-y・-z=-xyz

 マイナスが三つ付いて負の数値になります。つまり二重否定に否定がつけば否定になってしまうのです。めんどくさいことこの上なし! まあ、恐らくはこの表現を使う人もこれが複雑で分かりにくいことは承知の上で使っているのでしょう。「ぴえんこえてパオン」のように、現在の若者言葉のトレンドの一つに「リズム」や「語感」というものがあるので、それを考慮すればこのような奇妙な言い回しが使いまわされているというのも納得できます。

 

 そういうことでまとめると、1.は「よくないんじゃいの?」という意味を持ち、また2.は「じゃないよね?」といった具合の意味を持ちます。ただここで疑問。果たして理論はそれでいいとして、実際問題本当にこの解釈で使っている人しかいないのでしょうか? 日本語に興味がある私も初見ではよく意味が分からなかったので、誤用もあるのではと思ってツイッターを調べてみました。するとどうでしょう。驚くべきことに、ざっと見ただけではすべての投稿が軒並み「正しい使い方」をしていました! 信じられないという方は自分で見てください。ほんと見事に統一されていますから。

 うーん。やっぱり最近「日本語の乱れ」とか言われていますけど、あれは乱れではなくて変化なのですよね。なぜかといえば、こんな複雑怪奇で難しい表現を全く何の苦も無く、そしておそらく調べもせずに使いこなしているのですから! 私たちの若者言葉への認識も、変えなきゃよくなくない?



 

  

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