七月四日
雨。行き帰りの出勤時はずっと雨が降っていた。天気予報によると、梅雨明けはまだ先らしい。来週からが本降りだ、とも言っていた。憂鬱だ。しかしながら、憂鬱であるぼくの心の中にも、小さな幸せが存在していた。ぼくに、彼女ができたのだ。それも、太陽のように眩しくて、天使さえも羨むほどのあどけなさを持っている。非常に愛らしい女の子だ。ぼくは彼女のことを、あゆちゃんと呼んでいる。本名は〝池田 愛弓〟だから、あゆちゃん。少し単純かもしれないが、付き合いたての愛称はこのくらいが一番心地よいのだ。あゆちゃんは、ぼくが働いている会社のすぐ近くにある、エルマートというコンビニエンスストアで、週四日、夕方の五時から九時くらいの間でアルバイトをしているのだ。まだ大学生だから、働くのは学校が終わったあとのほんの数時間だけれど、ちゃんと自分でお金を稼いでいる。偉い。ぼくの稼ぎがもっと良ければ、ご飯くらいまかなってあげれたのになぁ……と、悔やんだ。なにしろ、ぼくは工場で働く派遣社員だ。以前は別の工場で働いていたが、先月末から派遣先が移動して、今の工場で働くことになった。むろん、派遣社員ということには変わりないし、特別賞与などというものも一切存在しない。はっきり言えば、いつクビになってもおかしくない状況なのだ。だけれども、そんなぼくにもあゆちゃんは優しいから、「わたしはへいき。裕也さんといっしょに居れるだけで、すごくうれしい」と言ってくれるに違いない。彼女の笑顔は天使なのだ。いつ見ても、よどんだ心を癒してくれる。太陽みたいに、めいいっぱい笑ってくれる。それから、辛い毎日を幸せに変えてくれる。だからだ。ぼくは、日記を書くことにした。あゆちゃんとの思い出を忘れないように、日々の出来事を記しておこうと思ったのだ。どんなに小さな出来事でも、ぼくにとっては大事な宝物。明日も、仕事帰りに会えるのが楽しみだ。
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