七月五日



 案の定、大雨だった。夜になってもやむ気配がない。カーテンで隙間をつくってときおり外の様子を見ているのだが、どんどんひどくなっている。昼間に比べて風も強くなっているから、外を歩く人達は、〝傘を持っていること〟に必死だ。飛ばされないように傘を両手でぎゅっと握りしめたり、雨具を身につけて自転車を漕いでいたり、いっそうのこと、何も装備をせずにずぶ濡れになっているひとも見かけた。なんにせよ、街ゆく人々は顔をしかめっ面にしていて、前かがみになりながら歩いている。本当にひどい雨だ。ぼくは小さめのビニール傘しか持っていなかったので、大きい傘を新しく買おうと、今日も仕事帰りにエルマートへ行った。夕方の時間帯だとあゆちゃんも確実にいるので、最近は日課になっている。コンビニエンスストアの中も、雨の匂いと湿気がすごかった。あゆちゃんも、いつもは綺麗に束ねてあるお団子ヘアが、ところどころうねっていた。レジ前にお客さんが居なくなると、無意識に前髪を手で押さえたり、湿気のせいでくるりと巻かれてしまった横髪を、不機嫌に耳にかけたりしていた。おそらく、彼女もねこっ毛だ。ぼくも昔からねこっ毛で悩んでいたので、気持ちがよく分かる。髪型は湿気で大きく左右されるし、一度うねった髪はもう元には戻らない。ねこっ毛が目立つ日には、朝から険しい表情になってしまい、その日一日全てが嫌になるのだ。とはいえ、あゆちゃんのねこっ毛は、ぼくにとっては全然問題ない。むしろ、うねった髪の毛が濡れているようも見えて、普段の可愛らしさと、今日は、女の色気も滲み出ていた。なにかと厄介な雨の日が、好きになりそうだった。

 そういえば、あゆちゃんには兄弟がいるらしい。うえにお姉ちゃんと、したに弟。彼女は、三人兄弟の真ん中だ。お姉ちゃんはもう自立をしていて、歳も三歳くらい離れているから、一緒に遊んだりはしないみたい。二人で映る写真もあまりみかけないし、同性だけれど、歳が違うとやっぱりそうなってしまうらしい。もっとも、聞いた話であり、ぼくは一人っ子だから想像することが出来ないけれど……。でも、年子の弟とは頻繁に会っているみたいだ。この前も、友人を交えてカラオケに行っていて、ぼくは焼きもちを焼いた。なぜかって。あゆちゃんが、弟と二人でデュエットをしていたのだ。その楽しげな動画を見て、すごく仲が良いのが伝わってきたし、兄弟とはいえ、弟が羨ましい、とさえ思った。この瞬間だけ、弟に変われないものだろうか。あぁ、本当に羨ましい。








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