第16話 不器用なアスハさん
騎士道を辞め侍女になってくれたアスハさんは実は不器用だったのです。
たは。なんてことだ。身の回りの世話を頼んだら凄いことになった。
なんと! アスハさんは朝起きが苦手で私より寝ます! はは。
さらに! アスハさんは料理をしたことがなく仕上がりが酷い。
しかも! アスハさんは私よりも方向音痴で迷子になりそうだった。
極めつけは騎士道精神の名残からくる自論の持ち主だということだ。
つまりアスハさんは女子力がかなり低い。それも異常なまでに。
そもそもアスハさんって何者なんだ? よくよく考えたら素性が。
そう感じつつも私はアスハさんやシルヴァと共に仕事場に向かう。
私の仕事場は言うまでもなく祈りの祭壇だ。そこでいつも
平和を祈り博愛の元で祈りを捧げる。日課だが既に飽き飽きしている。あはは。
ああ。本音が言い合える職場はないのかな。ある意味でここはブラックです。
はぁ~。アスハさんは気配りをしてくれてるけど道案内となると挙動不審だ。
そのことにシルヴァは気付いたのか。シルヴァが先導するようになっていった。
「はは。面目ない、私としたことが」
どうやらアスハさん自身が気付いたみたい。でも優しいな。性格は素晴らしい。
「初めてなら仕方ないよ。問題は最後まで諦めないことだよ」
そもそもアスハさんは聖女の国に詳しくない。私だって田舎にきた感じだ。
「ああ。そうだな。私ももっと馴染むように頑張るよ」
へへ。なんだか心地がいいな。転移前はもうそれはそれは喧嘩ばかりだった。
恋しくない。寂しいもない。だってこっちでの生活の方がなんだかんだでいい。
「皆でさ! 頑張れば! 平和なんてあっという間だよ!」
調子に乗っているって言われるかもだけど私はもうそれくらいに気分がいい。
「平和か。戦争中は考えたことなかったな。正義こそが全てだと思っていた」
もちろん! 正義も大事だろうけど人間だけが平和を語れるって教えたいよ。
「小競り合いは動物でも起こすけど平和を言葉に出来るのは人間だけだよ」
転移前は平和についてなんて考えたことなかった。あは。聖女失格だな。私。
「確かに正義を掲げ脅威の一言で戦争をするよりは言葉での解決の方が好ましい」
そうだよね。こっちにきて痛感することばかりだよ、本当に。共感しなくちゃ。
「着いたよ、祭壇に」
お? どうやらアスハさんと会話している間に祈りの祭壇に着いたようだ。
「さてと! 今日も頑張ろう! んじゃ!」
気合を入れて挑まないとね。跪いて祈るだけでも結構しんどいんだから。
「あ! ちょっと待ってくれ! 有難う。そのなんだ。きてくれて」
アスハさん。嬉しいよ、そう言ってくれるなんて。なんだか泣けちゃうよ。
「うん! んじゃ!」
私は泣きそうになりながらも堪えて笑顔で答えた。頷いたあとは背を向けた。
今日も今日とて平和を祈り続けよう。こうして私の一日が始まりを告げた。
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