第2話 小倉トーストとタバコ
今日の昼、小倉トーストを食べに近くの喫茶店へ行った。
名古屋に来てから5日目。名古屋での初休日。
何もせずに部屋にこもってるのもなあ、とぼんやり考えた末、
「名古屋=喫茶店」という方程式が突如頭に思い浮かんだ。
せっかくの期間限定一人暮らし、生かさない手は無い。
すぐに現在生活しているマンション近くの喫茶店を検索する。
そうしたら、発見。しかも、めちゃくちゃ近い。
起きたままの恰好だったので、簡単に着替えて勇んで玄関へ向かう。
エレベーターに乗り、一階のボタンを押して気付く。
「あ、マスク忘れた。」
一階に降りたばかりのエレベーターに、そのまま我が部屋がある階までトンボ帰りさせる羽目になった。ごめんなさい、エレベーター。
なんだかなあ、の気持ちを抱えて今度こそ出発。
念のためスマホのマップを開いて歩き始める。
3分かからず着いた。
近い。近すぎ。
別に文句を言うことでは無いのに、
マップまで開いた自分がアホらしくなるほど近い。
店に入ると、相席をお願いされた。
自分一人だし、長時間居座る予定もなかったので承諾する。
席に着き、注文を聞かれたので、すぐさま小倉トーストとアイスコーヒーを頼んだ。
「名古屋の喫茶店で小倉トースト」が自分の中で一つのミッションになっていたので、
思ったより早く達成できたことに勝手に満足する。
小倉さんが到着されるまでの間、相席パートナーがどんな人か気になって前をチラ見すると、新聞を広げたおじさまが座っている。
視線に気づいたのか、おじさまはこちらを見て、ニカっと笑って言った。
「タバコ、大丈夫?」
大丈夫です、と答えたが、たぶん匂いにしかめた顔に気付いたから聞いてくださったのだろう。
大丈夫ですの顔も、出来るだけにこやかにしたつもりだったが、
しかめっ面に無理やりかぶせた笑顔では、かえって逆効果だったかもしれない。
そのおじさんに恨みがあって顔をしかめたのではない。
お店のドアを開けた瞬間には、分かっていた。
恐らく、「そういうタイプのお店」は、ここ最近では絶滅危惧種に認定されつつある。
来店したお客さんに当たり前のように灰皿を出し、
目の前のお客さんが新聞片手に「大丈夫?」と聞いてくれるような、そんな店。
喫煙者でもなければ、「昔ながら」のリアルすら体験したことのない私だけど、
「喫茶店ってこうだよな」と思った。
その店は、カフェではなく「喫茶店」として佇んでいるのだと感じた。
そのうち、私の前に灰皿を置いてくれた店員さんが、トーストとコーヒーを運んできてくれた。
私はやっぱり顔をしかめながら、名前通りの味がする小倉トーストを食べた。
美味しくて、楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます