第7話 余興
テントの中の空間は、外から見るよりもずいぶんと広く感じられた。
会場内は、ごてごてと着飾った人々の熱気と粉っぽい化粧の匂いに満ちている。
中心のステージを囲むように観覧席が円状に並べられていた。
そこに派手な色の外套や羽根つき帽をまとった紳士淑女が、所狭しと敷き詰められ、わらわらと上機嫌に揺らめいている。
ハークは眼前の光景に、軽く眩暈を覚えた。
「しっかり舞台を見張れ。召喚が始まれば、すぐに魔獣を仕留めろ。召喚主は死なすな」
ケイトは、訳が分からないハークに、自分と共に来るよう言った。
ロゼとアルフレッドは、逆方向へとラピスラズリに背中を押された。
ロゼは、はたと思い立ちラピスラズリを仰ぎ見る。
「フィルは」
「宿へ戻ってもらったわ。ここは、常人には危険なの」
「長い夜になりそう」
「さぁね。あなたたち次第ってとこ。ほらほら早くしないと、いい席が埋まってしまうわ」
アルフレッドは、何も語らなかった。
いよいよ灯りはすべて消され、会場は軽い半狂乱の状態に陥った。
一筋のスポットライトがステージにおとされると、司会の男性の姿が。
周囲の熱が上がり、歓声が闇を包んだ。
前座として始まったのは、踊り子たちによるダンスのショーだった。
ハークは後ろの席から聞こえてきた、老夫婦の会話に耳を傾けた。
「メインまではまだあるな。楽しみだ、マーティア嬢の大召喚」
「見届けなくちゃあ。彼女はレオセルダの誇りなの。この国じゃここが一番偉かったのに。『あれ』を王都に盗まれたから」
「もう何べんも聞いたよ。それは」
「ああ、困ったわね、オペラグラスを忘れてきた」
ハークは、ケイトの不機嫌そうな横顔を見た。
「おい、いつまで黙り込んでるんだっつーの。巻き込んどいて説明もなし。国の品位を疑うよ」
ケイトはじろりとハークに目をやり、ぽつりと呟いた。
「これから行われる召喚は、おまえの連れのようなのとは違う」
「アルフレッドみたいな聖獣とは違って、魔獣だからか?」
「本来、魔獣との契約は禁忌だ。魔獣は召喚主の生気を吸う」
そのひとことに、ハークはぞっとした。
途端に、隣にいる異様な容姿の青年に、濃い死の影がまとわりついているように見えた。
「魔術は、自然界に存在しないだろう。人間が生み出した呪いだ。したがって、魔獣も本来の獣の生を歪められたものだ」
「お前も」
「だから、引き換えに強大な力を持つ」
そのとき、周囲の歓声がひときわ大きくなった。
音楽隊が奏でていた陽気な音が止んだ。
そして、木製の板でできた舞台に、くだんの「魔女」が姿を現したのだった。
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