第6話 宵待ち
「んで、なんでお前と仲良く集団行動なわけ?」
ハークは、不満そうに口を尖らせた。
「あんたらは事情とやらがあって、獣を連れてるんだろう。だったら協力しろ。国の要請にしたがうのは獣使いの義務だからな」
俺は獣使いじゃないんですけど、と言いかけたハークは、ケイトの眼光の鋭さにより、それを飲み込んだ。
話を聞くところによると、この青年も獣使いであり、セインベルク王国に仕え、様々な任務についているらしい。
ラピスラズリに連れ戻されたロゼは、仕方なくケイトの後に続いた。
「魔獣をつれているって、かなり訳アリだと思うんですけど」
フィルは、まぁまぁとロゼをたしなめる。
「あまり気にすることはない。ラピスラズリは魔獣といっても、聖獣と変わりない。主人に忠義を尽くす心はアルフレッドと同じじゃよ」
「…」
ハークには、それを即座に否定しないアルフレッドが珍しいと感じられた。
アルフレッドなりに、ラピスラズリに対して獣同士の同属意識を感じているのかも、とぼんやり考えていた。
ケイトに連れられ、街の大広場にたどり着くと、そこは色とりどりのひときわ巨大なテント群で埋め尽くされていた。
そして、そのあいだを通り抜ける人で、すっかりカオスと化していた。
宵が近づき、ますますカーニバルは人を呼んでいる。
昼間の炎天下に比べ、気温も下がり、活動しやすくなったのだ。
テントの前にはそれぞれ看板が立てられており、珍しい売り物や見世物が披露されている。
テント間を垂れこめる鮮やかな色彩の布が、ときおり行く手を阻み、人々はどこか夢うつつの気分に陥った。
道化や踊り子のような派手な格好をした客引きに、アルフレッドは終始、眉をひそめていた。
ハークはすっかり滅入ってしまった。
「何だってこんなに人が多いんだよ!」
「田舎育ちのハークには、刺激が強すぎたかしら」
「うるさいな、ロゼだってこんなところ、初めてだろ!?」
「まぁね。でも楽しいし、興味深いわ」
ロゼは、この街に来てからずいぶんと好奇心を刺激されているらしい。
あいかわらず少女にしては生気のない目をしているが、広い世界を知る幼子のようにあれは何、それは何、と目を離すとはぐれかねなかった。
いっそ、本当に厄介な公権力の青年の目を盗むことができたら良かったのだが。
ひらひらと妙に身軽な彼の召喚魔獣が、さりげなく退路を塞ぐような動きをするので、それは叶わなかった。
ケイトは、最も豪華なオレンジ色のテントの前で足を止め、一同を振り返った。
「ここで今夜、祭りで一番の催しがある。そこで凶悪な魔獣が、『魔女』によって呼び出されることになる」—
ケイトが促す先には、赤や黄の電飾に縁どられた看板があり、目を引く文字でこう謳われていた。
『失われた大召喚が、今宵100年の時を超え、レオセルダの街に蘇る』
ロゼは文字を追い、呟いた。
アルフレッドは、はっとし、ラピスラズリを睨みつけたが、彼女は意地悪く微笑んだ。
「先に言ったら、来てくれなかったでしょう」
「さぁ、お手並み拝見と行こうか」
有無を言わさぬ、ケイトの眼光が渋るハークらに鋭く注がれた。
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