第5話 瑠璃

 ―つかまえた

 ロゼは、何者かにふわりと後ろから抱きしめられた。

 小走りでケイトたちから離れていたため、咄嗟に対応できず、ひっと声を漏らす。

 アルフレッドがすごい剣幕で引き離し、押さえつけた。

「貴様!」

 腕をねじり上げると、その拍子に暗い色のフードが外れ、瑠璃色の髪が歌うような声とともに風に舞った。

 とたんに幻影が実体を現したように、くっきりとその姿が浮かび上がった。彼女の足元には影もあった。

「いったぁいじゃないの!」

「獣風情が、気安く僕の主人に触れるな」

「ああら、ずいぶんご主人にご執心なこと。やっぱり勘でわかるのよね、同業者って」

「彼女」もまた、人に姿を変えた獣だと、アルフレッドはとうに気づいていた。

 アルフレッドの拘束を難なくくぐりぬけ、あなたも、とロゼの顔を覗き込んだ。

「いつから、気づいてたのかしら」

「会ったときからね。あと、体に悪そうな毒の匂いも」

「さすが」

 女性に扮した獣は、人間にしては身軽すぎる動きで、さらに距離を詰めてきた。

 アルフレッドがけん制するが、お構いなしだ。

「私、瑠璃ラピスラズリよ。主人はラピスって呼ぶわ」

 言ってから、くすりと意地悪そうな笑みを浮かべた。

 ああ、聞きたいのはそういうのではなかったわよね。

 無論、とロゼとアルフレッドは険しい顔をしていた。

「魔獣よ、聖獣のあんたには縁遠い響きかもね」

 動揺するアルフレッドを愉快そうに一瞥した。

 ロゼは、「魔獣」という存在をここで初めて知ったのだった。

 しかし、自身の召喚獣であるアルフレッドは何か知っているらしいと瞬時に察知した。

 魔法や錬金術の類は、ここ最近で急速に発達し普及し始めたものだ。

 魔獣という存在が、その延長であることを勘が告げた。

 自然界のものとは到底思えない、毒の匂い。

「あら、心配しないで。どうこうするつもりはないから。私たちの標的は、あなたたちではないのよ」

 身をこわばらせるロゼに向けられた、魔獣らしからぬ慣れたウィンクが、彼女をおおいに戸惑わせた。

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