第4話 交錯

 片青眼の青年は、自らの名を名乗った。ケイトと。

 途端に、しきりにぶつぶつと考え込んでいたフィルが、やはりと声を上げた。

 何かが確信に変わったようだった。

「おぬし、このわしのことを忘れたとはいうまい。しばらく見ないうちに変わったな。ケイト・ハイネルよ」

 姓を名指しされて初めて、ケイトはまさか、と目を見開いた。

「学者の…フィルか。まったく気が付かなかった」

「失礼なやつめ。あんなに面倒を見てやったというに」

 ケイトとフィル。互いに面識があったことを受けて、ハークは緊張感をいくらか解いた。

「なんだ、知り合いかよ。じーさん、ほんと顔広いんだな」

 大きく息を吐くと、ケイトはフィルに向き合ったまま、その同伴者に鋭い視線をやった。

 仮にも宮廷付きの聖獣博士を、じーさん呼ばわりする連中である。

「こいつらは何者だ、フィル。そもそも、なんで国の聖獣博士が、無免許の獣使いと行動を共にしてる」

「おい、お前らこそ何者だってんだ。俺らは、じーさん…聖獣博士どのを王都まで護衛してるんだ!」

 ハークは、そうだよなとフィルに同意を求めた。

「ああ、そうだ。この獣使いの嬢ちゃんの身分はわしが保証する」

「こいつらの保護者になっている、と?あんた、そういうとこほんとに変わってないな。自分の立場をわかっていない、というか」

「それはお前が重々わかっておるだろうが」

「あー!もう、だから勝手に話を進めるなっつーの!」

 ハークが耐え切れず、叫んだところでロゼとアルフレッドが姿を消していることに気が付いた。

「ほら、長話なんてしてるから。あいつらは、もう雲隠れだぜ」

「それなら問題ない」

 すでに俺の召喚獣に追わせてる、と。

 この青年もロゼと同様に、獣使いに違いないようだった。

 その事実にハークは心底ぎょっとしたが、フィルはまぁ心配はなかろうと白い髭をいじった。

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