第9話 互恵
「あーあ、いつまで歩けば着くんだ、次の街は」
ハークは、ずっと独り言を叫んでいる。
「いい加減になさいよ。ナイト様の弟子を称しているくせに、情けない」
「ふん、そういうロゼは自分の足で移動してないだろ」
ハークは、聖獣化したアルフレッドの背に揺られるロゼを見上げた。
「若いもんが何をぶつぶつ言っとるんだ、根性なしめ」
「いや、じーさんにも言われたくないんだけど」
フィルは、ハークの頭上に座していた。
開発されて久しい、最新の魔法で操ることのできる絨毯の上だ。
王国からの支給だというから、宮廷お抱えの学者として大きな期待を置かれていることがうかがえる。
次なる街への旅には、フィルも同行していた。
腹の内を探りあうようなロゼとフィルの問答の応酬にやきもきしたハークが、神獣の話題について率直に切り込んだ結果だった。
怪しまれぬようにと苦慮していたロゼは、ハークの考えなしぶりに頭を抱えるやら、あきれるやらだった。
しかし、フィルは思いのほか自然と受け入れた。どうやらハークの読み通り、職業柄、色々と知っていることがあるらしい。
その代わり、神獣の情報と引き換えに雇先であるセインベルクの王都まで同行させろ、と話を持ち掛けてきたのだ。
いつもは、王都から護衛の兵士が来るという。獣の往来する山を越えるには、用心棒が必要なのだ。
はじめ、フィルが先に情報を出さないあたり、いいように利用されるだけでは、とアルフレッドは渋った。
複数人を守りながら移動するのは、アルフレッドとて骨が折れるためだ。
アルフレッドにとって、主人であるロゼ以外に神経を使うのは面倒ごとだった。
しかし、フィルの肩書きは、やはり魅力的に映った。
手始めに、関所で面倒な手続きが大幅に免除され、快適な旅立ちとなった。
そして、金銭にも多少の余裕が生まれた。
皆は、それぞれに思惑を抱えながら、山中の道を進んでいたのだった。
幸い、未だ獣の襲撃には遭遇していない。
「まぁ、気を落とすな。そら、その断崖から見えるのが太陽の街だ」
フィルが促すほうへ、一同は目をやった。
眼下には、鮮やかなオレンジ色の建物が立ち並ぶ、大きな街が広がっていた。
街の熱気が、行き交う人々の喧噪が、今にも聞こえてきそうだ。
「あら、ずいぶんと活気のある様子ね」
「特に、今の時期は街を挙げてのカーニバルが開催されているからな。観光都市のお祭り騒ぎに便乗しようと、国中から人が集まるんじゃ」
それを耳にしたロゼは、にわかに元気を取り戻した。フィルもこれまでの順調な道のりに満足げだ。
「さぁ、もう少しの辛抱じゃ。ぼちぼちしていたら、日が暮れてしまうぞ」
光と太陽の街―レオセルダまで、あと少し。
西の空は、徐々に茜色に染まり、よりいっそう街を美しく見せた。
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