第二章 太陽都市、魔獣使いの饗宴

第1話 祝祭

 光と太陽の都―レオセルダ。ここは、王国きっての観光都市だった。

 降り注ぐ陽光に照らされるは、均一に立ち並ぶ建築物の数々だ。

 町全体で統一されたオレンジ色の屋根に、白い外壁がまぶしい。

 カーニバルの開催も手伝って、街は色彩の洪水と化していた。

 金の刺繍が施された色とりどりの垂れ幕、絶えず風に舞う紙吹雪、空をただようバルーン、そして大通りの脇に張り巡らされたテント群。

 どこに行っても付きまとう、色めきだった人々の喧噪は、時折耳をおかしくさせた。

 

 ケイト・ハイネルは、我慢できなくなり、人の流れを避けるように裏通りへと身を潜めたのだった。

 すらりとした体の線を隠すような、灰色のケープを着込み、フードまで被っている。

 彼は、特異な雰囲気をまとった青年だった。

 特に、警戒心の強い猫のような瞳。

 それは、左右で異なる色をたたえていた。

 そして、その隣には、影のように寄り添う漆黒の何かがいた。

 濃紺のローブが足元まで垂れ込めているせいで、日陰の中ではほとんど人型の影絵同然だった。

 しかし、その主が発したのは、風貌にはまるで似つかない、鈴を転がすような声だった。

「ケイト、貴方にしては読みが甘かったんじゃなくて?もう少し情報を揃えてから来るべきだった。違うかしら」

「うるさい。闇雲に動いてるわけじゃないさ。それより、お前はもう少し気配を隠せ」

 青年がたしなめるにも関わらず、「影」はおかしそうに笑い声を漏らしていた。

 午後のうだるような暑さが、平常よりも青年を苛立たせていた。

 と、そこで片青眼の青年は何かを見つけ、大通りへと視線を留めた。

「影」もそれに従った。

 逆に、裏路地から息をひそめる両者を気に留めるものは誰もいない。

 一対のような両者の間で交わされる会話は、言葉であるのかも不明だった。

 まるで、独り言のような。

 ただ、そのさなか青年が「影」の存在を「瑠璃ラピスラズリ」とだけ呼んでいたのは確かだった。




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