第7話 対峙

 翌朝、ハーク、ロゼ、聖獣アルフレッド、そして聖獣博士のフィルは、再び港町へ出向いた。

 結界の張り巡らされたフィルの家では、聖獣であるアルフレッドが同席できないためだ。


 朝食を済ませた後、ハークは旅に必要な物資の買い出しに走った。

 午前中のうちに出発する予定だ。

 店を出ると、ロゼとアルフレッド、フィルが海を眺めながら何やら話し込んでいるのが見えた。


 ハークは、ロゼとアルフレッドが契約に至った経緯を知らない。

 おそらく、そのような個人的な事情は他人には話さないだろうと思った。

 おおかた、聖獣の習性だの、獣使いの資質だのについて話しているのだろう。

 そのあたりが職業柄、フィルが欲している情報だろう、と。


 自分は、ただ探しているだけだ。

 この剣を託したまま、行方をくらませた師に。

 ロゼが騎士ナイトと呼ぶ男に。

 ロゼとアルフレッドは、その道標だ。


 ハークは腰に携えた、剣に手を触れた。

 それは、聖なる力を宿したものだった。

 斬った獣を、灰に帰すという聖剣。


 師は、なぜ自分にこんな大層な剣を託したのか。

 その答えを知るために、もう一度会わなくては。

 ハークは紙袋をくしゃり、と抱えてロゼたちのもとへ駆け出した。


 そのときだった―背後から、獣の一群が跳び出したのは。

 何故だ。どうしてこんな街の中に。

心臓の鼓動がどんどんと打つのがわかった。

突然のことで思考が追い付かず、血の気がひく。

 獣たちはハークを追い越し、よりにもよって目線の先のロゼたちの周囲を取り囲んだ。彼女らの背後は海である。

 アルフレッドは、応戦のために聖獣化しようとしたが、ロゼが制したのがわかった。

 波が広がるように街の混乱が大きくなる。

 じきに衛兵もやってくるだろう。そうなれば騒動の中、アルフレッドも的となりかねなかった。

 咄嗟に、ハークは手にしていた紙袋から缶詰を取り出し、石畳にたたきつけた。

 甲高い派手な音が響くと、獣たちの注意はこちらに逸れる。

 すらりと抜いた剣を構えると、群れた獣たちは爪を立て、いっせいにハークに対して威嚇を始めた。

 幸い、相対する獣越しにアルフレッドが、ロゼとフィルを庇って移動したのが見えた。

 これで十分だ。あとは、どこまで時間を稼げるか―

 ハークは、もううるさいくらいに脈打つ自分の鼓動の音を聞いた。覚悟を決めるしかなかった。

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