第5話 旅の目的
フィル博士の研究所内は、元教会というだけあり、落ち着いた木造建築の様相だった。
しかし、入り口から向かって正面に見える、祭壇上の十字架は取り外され、代わりに神々しい聖獣と思しき姿絵が金の額縁に飾られていた。
そして、四方の壁という壁に本棚がびっちりとはめ込まれている。
並べられた本は、聖獣関連の書籍はもちろん、伝説、地理、天文学、幾何学に関するものまで様々だった。
「じーさん、こんな広いとこに一人で住んでるのかよ」
ハークは、無遠慮に各部屋を覗いて回った。
「ええい、いちいち騒ぐでない。ほら、客室はあっちだ」
ロゼとハークは、少ない荷物を客室に置き、ようやく腰を下ろした。
一日中散策を続けていたので、足は棒のようだった。
アルフレッドは、この建物に張られた結界の影響が及ばない、離棟で休んでいる。
ハークは寝台に寝転がり、天井を仰いだ。
「アルフレッドとは離れていて大丈夫かな」
「あら、寝床が確保できるって聞いて、乗り気だったくせして」
君は相変わらずお馬鹿ね、とロゼはため息をついた。
「まず、その心配はないわ。正式な大国お抱えの博士、とくれば下手なことはしないでしょう。はじめは、うさん臭いと思ったけれど、建物の前にあった紋章が何よりの証拠じゃないかしら」
大国ことセインベルクは、このあたりでは最も影響力の強い王政国家だ。
学問に優れ、獣との契約に関しても寛容なことで知られる。
この周辺地域も辺境ではあるが、セインベルク国領内だった。
「まったく、ロゼは物知りだな」
「これくらい、常識よ。それより、わかっていて?私たちは神獣について、何が何でも聞きださないといけないのよ」
「わかってるよ。聞いて素直に教えてくれるといいんだがなぁ」
「話題が話題だけに、そううまくいくとは思えないのだけれど」
二人は顔を見合わせた。
そもそも、この二人がともに旅をするのは、共通の目的があるためにすぎなかった。
それは、同じ一人の獣使いの人物を探しているということ。
そして、その男は神獣の存在を繰り返し、話していたのだった。
この世の果てにいるという神獣の話。
人の世界に神がいるとすれば、獣の世界にもそれに代わる神がいると。
その男は、架空とも知れない神獣の存在に魅入られていたようだった。
彼は、ロゼの育ての親ともいえる存在であり、ハークの剣の師匠でもあった。
―
ロゼは、騎士の振る舞いをしたその男を、ナイトと呼び慕っていた。
彼は、記憶喪失の状態で途方に暮れていた幼いロゼとしばし生活を共にし、読み書きを教え、自分と同じ獣使いの才能を見出した。
そして、ある日ぱったりと姿を消したのだ。
おそらく、そののちに
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