第4話 夜、研究所

 ハーク一行は、聖獣博士ことフィルに連れられ、近くにあるという研究所を目指した。

 街の離れにある使われていない教会を改築したのだという。

 海沿いの街並みを抜け、雑木林に入った。日が沈み、あたりはもう暗い。

 フィルは慣れた手つきで、ランタンを手に、先を照らしながら足を進めた。

 波の音は徐々に小さくなり、緑の小径を進むと、教会らしい建物が現れる。

「旅でお疲れのところ、ご苦労さん。ここがわしの城だ」

 手にしていた明かりで木の立札を照らすと、刻まれた文字と王国の紋章が浮かび上がった。

「ロゼ、これなんて書いてあるんです」

 アルフレッドは文字が読めない。

「セインベルク王国お墨付きの、聖獣博士の研究所ですよ、って」

 ロゼが読み聞かせるとアルフレッドは、意外そうな顔をした。

「宮廷付き、というのは本当だったのですね」

「失礼なやつめ。もういいから、早く入れ」

 フィルは、ひどく軋む庭の扉を開き、一行を招き入れた。


 庭を進むと、教会の外観が間近に確認できた。

 その建物は、蔓や葉が巻き放題で不気味な様相だった。街灯がないのも、そのただならぬ雰囲気を一層引き立てている。

「さぁ、ここが我が研究所だ。元は街の教会として使われていたが、持ち主の神父が、ずいぶん前に隣国のローヴェル大聖堂へ呼ばれた。その建物を引き取ったのだ」

 フィルが話しながら、「研究所」の扉の鍵を開けていると、一番後ろにいたアルフレッドが突然、獣のうめき声をあげた。

 驚いて振り返ると、みるみるうちに長身の青年から聖獣の姿へと変わる。

 フィルは目を見張った。これまで、聖獣と実際に遭遇する機会はそう多くなかったのだ。学者として、観察眼に力が入る。

 本来のアルフレッドは、隣に立つロゼが小さく見えるほど大きな姿だった。

 蒼い毛並みをした狼のように見えたが、その頭部には鋭利な角を持ち、伝説上の一角獣のようにも見えた。

 何事か、とハークはうろたえたが、ロゼは別段驚いた様子もない。

「あら、建物内に獣を寄せ付けない結界を張ってるのね、フィル」

フィルは、呼びかけでようやく我に変えり、はっと思い出した。

「すまん、アルフレッド。長らく聖獣を研究室に招き入れることがなかったもんで、結界の存在を忘れとった」

「すまん、では済みませんよ。体中の力が抜けていく…」

アルフレッドは、獣の姿をしていても人語を解し、話すのだ。

「いや、申し訳ない。離れの小屋を片付けるから、お前さんはそっちで我慢してくれ」

「……」

「さすがに同情するよ。えげつないじーさんだぜ」

 ハークは、尻尾を力なく落とし、苦悶の表情を浮かべるアルフレッドの毛並みをなでてやった。










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