第2話 とある港町にて
「ロゼ、顔色が悪い…荷物をお持ちしましょうか」
紺青の瞳と髪、そしてすらりとした長身のアルフレッドは、町でひときわ目立っていた。
「アルフレッド、きみは人間の姿では貧弱なんだし、べつに平気よ」
ロゼ、とよばれた少女は振り返ってアルフレッドを見上げた。
彼女の名はロゼッタ・ヴァイオレットという。本名かどうかは定かではない。
その瞳は、菫色をしていた。しかし、そこに光はない。
「それにしてもシケた田舎町。一回りしたけど、めぼしいものがまったくないからね」
「めぼしいもの…といいますと」
「決まってるでしょ、私が欲しているのは情報よ」
「なら、もう少し言葉を選んでください。さっきの口ぶりではまるで盗賊ではありませんか」
諭すような彼の様子にロゼは少しも面白くなかった。
「聖獣のきみにいわれたくないね」
―聖獣―
彼女はそういった。
この世界には、聖獣や魔獣といった特別な力を宿した獣が存在する。
ときに共存し、また、同時に脅威ともなりうる。
しかし、契約関係を結び、対等にわたりあえる者たちもいた。
人間と獣はそうして、古来からお互いの領域をはかりながら暮らしてきたのだ。
そしてまた、ロゼもアルフレッドのことについて詳しくない。
契約を結んでから、約一年が過ぎた。
旅をするにつれ、アルフレッドは人の姿に変化できるきわめて上位の聖獣であることがわかった。
また、知性も高く、主人を気遣える繊細さも持ち合わせていた。
「アルフレッドは本当に、私よりもよっぽど人間的ね」
ロゼは細かく指摘をする自分の契約獣に、小さく息をついた。
その後、二人が黙々と足を進めていると、ロゼと同い年くらいの少年が、漆黒の髪をなびかせながら、突進してきた。
「おい、お前ら!俺が方向音痴なの知ってるくせに…おいてくんじゃねぇよ!!」
少年は、その勢いでアルフレッドに向かって飛び蹴りをかました。
「ずいぶんな挨拶ですね…えっと」
アルフレッドは怒涛の一撃を軽くよけながら、ロゼに目くばせをした。
「ハーク、よ。そうよね迷子ちゃん」
ロゼは、地面に転がっているハークに侮蔑の目を向けた。
「うう、いい加減にしろよ、お前ら…」
ハークは、涙目で二人をキッとにらみつけた。
「くそ、こうなったのもぜんっぶ師匠のせいだ」
「……」
ハークの軽率な発言はロゼの気に障ったらしい。
まずい、と思ったがもう遅い。
ロゼは、石畳みに転がる少年の上に腰を下ろした。
彼がふぎゅっ、という奇妙な声を発し、完全に降伏したのはその直後である。
「ロゼ、あんまり邪険に扱わないこと」
「…知らないわよ」
「なんといっても、ナイト様の大切なお弟子さんなのですから」
アルフレッドは、困ったようにハークを軽々と背負いあげた。
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