そうして二人は行き先を決める


「まずはクラム、君の家に戻ってみたらどうだ。これから妹を探しに行くにしても、何かと先立つものは必要だろう」

「確かにそうかも、慌てて飛び出したから何も持ってなかったよ」


山を下りた二人はそんな会話をしながら、クラムの住まいへと向かうこととなった。

その道中クラムは周囲を何度も警戒しながら、細心の注意を払いながら森の中を歩いていた。

クラムの頭の中には追いかけてきた男たちのことがあった。


『そういえば、彼らは一体何だったんだろうか』


クラムは自分を追いかけてきた連中を、最初は妹をさらった奴らの仲間だと思って近づいたが、その予想に反して追いかけられることとなった。

クラムが自分の考えが外れたのだと気づいたと同時に、そんな男たちはあの場所で一体何をしていたのだろうかという考えが浮かんできた。

森も少し奥まった場所での軽装は、植物や何かに引っ掛けて危ないなんてことは小さな子供だってわかっている。

だからでこそ、あんな人気のない場所で話し合っているのもあまりに不自然なものだと思っていた。


「どうした、浮かぬ顔をして」


クラムのすぐ横には少女が並び歩いていた。

赤い髪に、吊り目をしている。クラムより少し小さいくらいだが、人間の年齢的にはクラムの少し下だろうかと考えている。

そんな彼女とクラムとの間には、不思議なつながりのようなものを感じている。

契約とやらの影響か、どこにいてもクラムはアストルのことを分かるようになっていた。

だからでこそ、最初に少女になっているところを見たときは驚いた。


いろいろと話を聞いてみたところ、アストルがクラムに力を分け与えたせいで竜の形をとっていられなくなったとも聞いた。

それが本当のことかもしれない、だけどクラムには何か隠し事があるような、そんな感覚も覚えていた。

そしてクラムにはもう一つ気になっていたことがあった。

それが追いかけてきていた男たちのことだった。


「それがさ、どうして自分はあの男たちに追われたんだろうって思ってさ」

「男たちって、あの入り口まで追いかけてきてたやつらのことか、さしずめ聞かれてはまずいことでも話をしていたんじゃないのか」


男たちはそれなりに大人数だった、小さな村程度なら、そして追われていた時に感じていた集団としての練度を考えれば。

一度わいた嫌な予感がクラムの中で膨らんでいく。


「……この近くに自分が住んでいる村以外に、何か集落何かあるっけアストル」

「少し離れた場所にある、少し大きな建物のことか」

「いや、あれは領主の館だ、警備の人間もついてるからあそこは外して考えていいと思う」


領主の館は何度か見かけたことがあった。

巡回する兵士は見かけるたびにどこかイライラしていたのをよく覚えていたし、できれば近寄りたくはない。村の中でもあまりいい噂を聞かない領主でもあった。


「だとすれば、ほかに村はないだろうなあ」


クラムの嫌な予感は猛烈な勢いで大きくなっていった。

もしかするとあの盗賊たちは、自分の住む村を狙っているのではないのかと。

そうすれば、森の深くに軽装でいたことも説明がつく。

彼らはその前準備をしていたのではないのかと。


「アストル、少し急いでもいいかな」

「いいがどうしたんだ、まだそんなに慌てるようなことはなにも、うわっ」


クラムはアストルをその腕に抱きかかえた。

背丈が少しくらいしか変わっていないはずなのに、クラムにとってアストルは軽かった。まるで羽でも生えているのではないのかというくらいに、重さを感じない。


「急に何をするんだ」

「ごめん、舌を噛むかもしれないから少し静かにしてて。急いで村に帰らなきゃ」


そこまで考えれば、自然とクラムは一つの仮定にたどり着いた。


「もしかしたらだけど、彼らは盗賊で、自分の村を襲おうとしていたんじゃないのかなって思ったんだ」


そしてアストルはクラムのその言葉を聞いてから考え込むそぶりを見せた。


「なるほど、確かにありうる話かもしれん」

「だから少しでも早く村にたどり着いて、このことを知らせたいと思ったんだ」

「そういうことか、だがそんなことをしていては旅立つのが遅れるかもしれないぞ、それでもいいのか」

「困ってる人を見るとほっとけないんだ、それが故郷の話ならなおさらだろ」

「わかったよ、このまま向かってくれ」


アストルもその理由に納得し、クラムの服の袖を強く握りこむ。


「ただまあ、なんだ、急に抱きかかえるのはやめてくれ、恥ずかしいんだこれでも」


クラムは言われてから気づいた、アストルは竜とはいえ、今は人間の女の子と何も変わらないのだと。


「ご、ごめん、おろしたほうがいい」

「いや、このままでいい、もう慣れたよ」


はにかむアストルの顔を見ながら、クラムは竜も人間の女の子も、あまり変わりなどないのではないのかと考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る