第4話 やっぱり駅は危険!~のそのそ~
この話はわたしが実際に体験した話です。
高校生の頃の話です。
恥ずかしながら、わたしは当時、早く歩くことに生き甲斐を見出だしていました。
勉強も運動も平均並み、中から下のランクを行き来するような人生の中、早く歩くということは簡単に得られる達成感でした。
目の前の人を追い越せるという、すぐに結果が出ることが楽しかったのだと思います。
そんなある日の帰り道。地元の駅のホームでは沢山の人が降りました。
わたしの目の前には、膝ほどまである長い黒髪の女が左右に揺れながら、のそのそと歩いていました。
あとから思えば、膝まで伸びた髪なんて滅多にお目にかかりませんし、左右に揺れる歩き方だって気味が悪いのですが、早く歩くことに生き甲斐を感じていたわたしは、気にも留めませんでした。
なぜならホームに降り立った瞬間から、早歩きの試合が始まるからです。
わたしはすぐさま女を追い越し、「こんなにのそのそと歩いて。余裕で追い越せたな。」くらいに思っていました。
ホームを降りると、階段を上り、改札を出て、通路を通ってまた階段を降りると、やっと外に出られます。
その道なりに歩き、いよいよ駅の外に出ました。
すると、あの女がまた左右に揺れながらわたしの前を歩いているのです。先程と同じように、のそのそと。
女の歩行速度では、わたしより早く駅を出ることができるはずがありません。
そこで、閃きました。
「この女、わたしに追い抜かれたことが悔しくて、走ったな。」と。
早歩きの面白いところは、追い抜くと、追い抜き返してくる人が、たまにいるところなのです。
この女も負けず嫌いに違いない。
そう確信したわたしは、鼻で笑いながらまた余裕で女を追い抜きました。
しかし追い抜く瞬間に、女が言うのです。
「待って。」
その声を聞いた瞬間に、わたしは何が起こったのかを理解し、後悔しました。
これは生きてる人間じゃないと確信したのです。
耳元で囁かれたような、脳に響いてくるような、普通の声ではなかったのです。
振り向いたら終わるということだけ分かりました。
わたしは「ごめんなさい、何もできません。」と頭で何度も念じながら帰りました。
家のドアの前で初めて振り返ると、そこにはもう誰も居ませんでした。
ホッとしながら家に入ると、母が夕食の仕度をしており、いつもの日常に帰ってきたなと安心しました。
安心するにつれて、あの「待って。」という声は聞き間違いだったのではないかと思うようになりました。
当時流行していたSNSの日記に、ことの次第を書くことにしました。
幽霊を見たかもしれないなんて、SNS上の友達も面白がるに違いないと思い、嬉々として携帯で文章を打っていました。
すると、途中で携帯の画面が斜線まみれになり、ブチンッと音をたてて電源が切れました。
今までこんな動作は見たことがありませんでした。
あの女が「書くな。」と言っているような気がして、わたしは全身に鳥肌がたちました。
いま思えば、実家や身の回りでの怪現象の始まりは、この日からだったかもしれません。
順を追って、これからお話ししていきたいと思います。
皆さんもどうか、駅ではお気をつけて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます