第5話 電車の中も危険!~社畜~


この話はわたしが実際に体験した話です。


友人と電車に乗って出かけた帰り道のことです。

1日遊んで、ぐったりと疲れていたわたしたちは、帰りの電車では話もせず、それぞれが自由に過ごしていました。


わたしの住んでいたのは田舎なので、前後2両にはボックス席があるような電車です。

ちょうど、わたしたちが乗っていたのは、ボックス席のある車両でした。


あと1駅で最寄り駅に到着するというところで、電車が駅で一時停車することになりました。


その駅はとても小さな駅で、快速も停まりません。

普段は一時停車をすることがない駅のため、こんなこともあるんだなと、ボーッとしていました。


日曜日の、田舎の下り電車。もともと人気はまばらです。

ふと車両を見渡すと、隣の車両に人影はありますが、私たちの車両は貸し切りでした。


隣りで携帯を操作する友人に貸しきりの旨と伝えると、興味が無さそうに相づちを打つだけでした。


「貸しきりの電車なんてそうそう乗れないのに、分かっていないな。」


やることもないのでまたボーッとしていると、突然、ボックス席からスーツの男が勢いよく立ち上がりました。


「ああ、なんだ。人が居たのか。」と思うのも束の間、男は寝過ごしたような慌てた様子で、わたしたちに1番近い出入り口に走ってきました。

しかし急いでいるせいで足がもつれ、そのまま転倒しました。

ズダァン!と大きな音が響き、私は慌てて友達のほうを見ました。

友人はこの手の失敗が大好きで、見ず知らずの相手でも指をさして笑うような、性格の悪いところがあったからです。


しかし、友人は興味無さそうに携帯を操作し続けていました。


当のスーツの男もカバンを抱えて、よろめきながら走って電車を降りていきました。


「大人になったね。」と友人に伝えると、疑問符を浮かべたような顔をしました。


「いま男の人が転んだけど、笑わなかったね。偉い。」


ドアを指さしながら話すと、友人は首をかしげました。


「は?誰も出ていってないけど。」


「え……でもすごい音がしたよね。」


「なんの音も聞こえなかったけど。」


わたしは血の気が引きました。

そして、少し悲しい気持ちにもなりました。

あのスーツの男は死んでもなお、仕事と時間に追われているのかと。


その後、何度も同じ路線を利用しましたが、その駅で一時停車をすることは、2度とありませんでした。




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