第2話 ご先祖様を大切に!~水が飲みたい~


この話は実際にわたしが体験した話です。



小学生の時の話です。

夏休みに祖父母の家に遊びにいきました。


祖父母の家は、ほぼ山の頂上付近にある村にあります。大自然に触れられるということもあり、夏休みにはわたしたち家族だけでなく、従兄弟たちも祖父母の家に集まることが慣習となっていました。


祖父母の家は山の斜面に沿うように建っているため、納屋や畑など、どこへ移動するにしても斜面を登らなくてはいけません。


家の裏手には、先祖の墓があります。

日当たりが良いため祖父母が移動させたのですが、当然、斜面を登らなくてはいけないため、祖父母も大人たちも億劫なため行きたがりませんでした。


その日、母から墓参りに行くよう言われました。

一緒に行きたいと言うので、当時まだ5歳だったA君の手をひき、2人で墓参りに出かけました。


墓に続く道は急な斜面のため、蛇行した道がついています。


墓に続く道に足を踏み入れた瞬間、先程までニコニコしていたA君が突然叫び声をあげて泣き始めました。

A君はわたしの手を振り払うと、叫び声を上げながら斜面を這いつくばって登っていくのです。道は関係なく、一直線に、土や草をむしるように登っていきます。


わたしはギョッとしましたが、まだ5歳のA君を放って帰るわけにはいきません。


急いで墓場までたどり着くと、A君は墓に伏して泣いていました。


「A君どうしたの。」


泣きながら、A君はわたしのほうを見ました。


「水が飲みたい。」

「え?」

「喉が乾いて辛い。あの水でもいいから飲みたい。」


あの水と言ってA君が指をさしたのは、斜面から流れるドブのような水でした。

さすがにそんなものは飲ませられず、A君はまた伏して泣くので、わたしはA君を抱えて斜面を降りました。


室内までは距離があったので、わたしは外の水道の水をA君に飲むよう提案しました。

綺麗とは言えなくとも、先程の水よりはましだと小学生ながらに思ったのです。


すると、A君はいつものようにニコニコ笑っていました。目にはまだ涙が残っていますが、けろっとした顔で「いまは喉乾いてない。」と言うのです。


わたしはどういうことか分からず、そのままA君を連れて母や大人たち居る部屋へ戻り一部始終を話しました。


大人たちは、わたしたちの代わりに別の従兄弟たちに水を持って墓参りに行かせました。


そして、従兄弟たちが交換で持ち帰ってきたコップは、カラカラに干上がり、水垢がこびりついたひどいコップでした。


あとで、祖父母はあの斜面に登ることが億劫なため、しばらく墓参りを行っていなかったことが分かりました。

祖父母も高齢であり、とても責められません。


そして、A君は幼いためなのか、あの直後にどうして泣いていたのかを聞いても、なんのことだか分かっていない様子でした。


偶然だったのか、それとも先祖の霊が乗り移ったのか。

今ではもう知るよしもありません。

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