降伏という選択肢


ここは再び玉座の間


魔力に底が見えた俺とヒサ姫はある準備のためにここに戻ってきた。


これからは魔法を敵を殲滅するために使うのではなく、結界などを作り、この場所を守るために使う。


徹底抗戦、徹底篭城の構えだ。


降伏するという考えは最初からない。もし降伏したとしても俺は想像もできないぐらい残虐に殺されるだろうし、ヒサ姫は辱めを受けた後で殺されるだろう。


そんな未来は絶対に嫌だ。俺は苦痛を受けて殺されるだけだが、ヒサ姫は超絶美少女なのだ。絶対にただ殺されるだけではすまない。


神聖なヒサ姫の身体に野蛮な野郎共の手が触れるなど…想像もしたくない。そんなことになるくらいなら俺は遠慮なくセカイを滅ぼす。そんなセカイは壊してしまえ。



「リーヴァス…?」


「はっ!なんでございましょう、ヒサ姫」


「いえ、あなた少し恐い顔をしていましたよ?」


「…すみません、少し考え事をしていました」


「あら、そう…。まぁいいわ、私の宝物は全てこの部屋に集めたわよ。あなたのは本当にこれだけでいいの?」


「私はもともと持ち物が少なかったのでこれくらいで充分なんですよ」



それに…本当に大切な宝物はすでに俺の眼の前に居ますから。



さて、今俺とヒサ姫がしているのは宝物の選別だ。


兵達に知られたら『こんな時にそんなことをしている場合ですか!?』と怒鳴られそうだな。


まぁ、ヒサ姫を怒鳴りつけるような兵士が居たら俺がこの場で灰にするがな。


こんな時だからこそ本当に必要な宝物を手元に置くのだ。


その理由は敵の略奪の手から守るため。それともう一つ、『死ぬ時は大切な物に囲まれたい』というヒサ姫の願いだ。


ヒサ姫の願いであれば、たとえ火の中水の中草の中森の中。どこへだって行ける。なんだって叶えてさしあげる。


ヒサ姫と一緒ならば………地獄にだって旅行気分でお供できるさ。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



それから数分後。



「申し上げます!」



「あん?」



敵にもう一発魔法をぶちかましてこようかと思ってると伝令兵が来た。お前に魔法を喰らわしてやろうか。


………ん?この伝令兵、どこかで….。


が、俺が口を開く前にヒサ姫が返事をする。



「何用ですか?」


「第3部隊、第4部隊、共に壊滅しました!もうこれ以上戦線が維持できません!どうか降伏をぉぉぉおお!?」



そうだ思い出した。こいつはホルスロー殿の戦死を伝えに来た伝令兵だったな。


ちなみにさっきの情けない叫び声は俺が伝令兵の首に剣を突きつけたからだ。


ヒサ姫が連合国に降伏?ハハ、何ふざけた事をぬかしやがる。燃やすぞ。



「…私が降伏したとして、それでどうなりますか?連合国は私達を皆殺しにするつもりなのですよ?私やリーヴァス、貴方も間違いなく殺されるでしょう」


「れ、連合国には多くの人がいます!まともな人もいるはずです!降伏した人を殺すような非道な事は連合国のメンツ的にも評判的にもできないはずです!だからここは降伏を!!」



こいつ……なかなか度胸があるな。首元に剣を突きつけられているのに喋れるとは。


だけど、その説得には応じられないな。なぜなら———




「『まともな人・・・・・』であれば、私達を殺さずにはいられないでしょうね」



「——っ!?そ、それは…」




そう、まともな人・・・・・ならば必ず俺とヒサ姫を殺すだろう。


ヒサ・ヴィアス・ルブルムとリーヴァス・ガル・ステインの2人はセカイの敵だ。これはたとえ降伏しようが変わらない事実だ。そんな俺達を生かすなんて、それは俺達以上の狂人だ。


そもそも戦争というのは降伏しようが降参しようが相手国のトップへの刑罰によって終わる。


これだけの被害を出してんだ。これほど非道で邪道な事をしてきたんだ。末端の兵達はともかく、少なくともヒサ姫と俺は死刑になるのは間違いないだろう。


それどころか死刑になる前に連合軍の兵達の私情によって嬲り殺されるだろう。特にヒサ姫は言葉の通りに。


だから降伏できない。最初からしようとも思わないが。



「俺達は……ルブルム帝国は降伏しない。わかったらさっさと戦場に戻れ」


「………どうしても降伏しないのですか?」


「そうだ。何度も同じ事を言わせるな」


「……………そう、ですか」



それきり黙る伝令兵。なんだ?この場から退場しないのなら今すぐこの世から退場させてやろうか?


そう思って魔法を放とうとすると、ヒサ姫が口を開いた。



「貴方には—————感謝しています」



ヒサ姫は、笑顔・・で言った。



この事がどれほどのことか、わからぬ兵はこの戦場に残っていない。そしてそれは、今この場にいる伝令兵にもあてはまった。



「———っ!?あ、あぁ、ああぁぁぁ…!?」



眼を見開き、ふらふらとよろめく伝令兵。



「な……なぜ!?どうして!?今になってその言葉を!?その笑顔を!?リーヴァス様にしか見せなかったその笑顔を!!どうして…今………!?」



「貴方達には今まで迷惑をかけました。それでも、今この状況になっても逃げ出さない貴方を嬉しく思います。私のために・・・・・頑張ってくれる貴方を誇らしく思います。………貴方達は、私の誇りです」



それを聞いた伝令兵は—————



「う……うわぁぁぁあああ!!!なぜ…どうして…今!今まで!私達に…私に!その笑顔を…その言葉を…仰ってくれなかったのですか………」


「貴方の言葉、嬉しく思います」


「これでは………貴女を殺せないじゃないですか…」



そう言って、伝令兵は隠し持っていた短剣を地面に投げ捨て、崩れ落ちた。


そうして、この場には笑顔のヒサ姫、無表情の俺、そして……泣き崩れる伝令兵だけが残った。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ルブルム帝国の兵士達は、なにも全員が恐怖で支配され、縛られているわけではない。


たとえばホルスロー殿のようにルブルム王国時代からの忠義溢れる……というか自分の地位を守りたい兵士もいれば、この国では敵兵を惨殺に殺せるからという理由で志願してくる狂人もいる。


そのせいで、ルブルム帝国の兵士には行き場のない者や元犯罪者、現犯罪者が他国と比べ、圧倒的に多い。というか各国から集まって来る。


そんな荒くれどもを、俺とヒサ姫が制御して戦わせているのだ。


兵士が戦う理由…それは、恐怖で支配され、縛られているというのが一番の理由だが、次に多いのはヒサ姫のため、という理由である。


ヒサ姫は美少女だ。超美人だ。可愛くもあり綺麗でもあり美しい。ユグドラシルで1番の美少女だと言っても過言ではない。


ヒサ姫を見て、守りたい、お役に立ちたいと思わない男がいるだろうか?いやいない。そんな奴は男じゃない。


正直に言ってルブルム帝国の兵士達は皆、ヒサ姫に恋していると言っても過言ではない。


ルブルム帝国の兵士、10代から40代の男全員が15歳の少女に恋している。………そう考えたらかなり恐ろしいな。この帝国本当に壊れてるな。ヒサ姫が他国から魔女と言われるわけだよ。



それはともかく、恋というのは人を裏切らせない一番の方法だ。


親兄弟でも争うこの乱世。家族が一番信じられるという人は少ないだろう。ヒサ姫だって親兄弟を殺して今の地位に立っている。


では1番信じられる者は?それは自分自身だ。そして、そんな自分が心から欲しい、尽くしたい、この人だけは守ってみせると思える人、つまり好きな人だ。


たとえ失恋したとわかっていても、人間、そう簡単に潔く諦めれるわけがない。


つまり、好きになってもらえればその人は裏切らなくなる。これで裏切らない兵士のできあがりだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



さっきの伝令兵は戦線が維持できないと悟り、このままでは自分も死ぬと思い、俺とヒサ姫の首を持って連合国に降伏しようとしたのだろう。


しかし、ヒサ姫に笑顔を向けられた事で忘れかけていた恋心を思い出し、殺害を……降伏を諦めた。


そうして伝令兵は……いや、『彼』は戦場へと戻っていった。彼はもう、心の弱い一般兵士ではない。ヒサ姫を守ろうとする立派な騎士ナイトとなったのだ。



「……ヒサ姫、私も戦場へと行ってまいります」



俺も…彼に負けてはいられないな。



「あら?私があの兵士に笑顔を見せた事に嫉妬しているの?」


「そのようなものです」


「ふふ♪可愛い♡」


「…18歳の男に可愛いはどうかと思われます」


「あら、今度は照れちゃった」


「……………」


「あらら、黙っちゃった。ふふ♪私も今ので気分が良くなったわ。最終準備も整ったし一緒に敵を屠りに行きましょう♪」


「………はい」



俺の方が3歳も年上なのに…。まったく…ヒサ姫にはかなわないなぁ。






こうして———



ルブルム帝国は降伏せず、戦い続けた。



そして篭城を続けて数時間後、ミョシム城内に大きな警告音が鳴り響いた。

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