二人の魔王


ここはルブルム帝国の主城、ミョシム城。


とても広大な、セカイの半分もの領土を持っていたルブルム帝国も残すところこのミョシム城だけになっていた。


ルブルム帝国の主城として難攻不落の堅城として作られたが、ここ数日の度重なる攻撃によって落城寸前となっている。


そんなミョシム城の最上階、玉座の間に2人の若き男女が居た。


1人は顔が整った18歳の青年。しかし、他国や帝国民から『魔王の右腕サタン・ライト』と呼ばれ恐れられているルブルム帝国の宰相、リーヴァス・ガル・ステイン。


そしてもう1人はまだあどけなさが残る15歳の美少女。しかし、他国や帝国民から『災厄のディザスター魔王女プリンセス』と呼ばれ恐れられているルブルム帝国の王女、ヒサ・ヴィアス・ルブルム。


互いに向き合い、話をしている姿は何も知らない人から見れば美男美女の若きカップルに見えるが、この2人こそがセカイに絶望を撒き散らす元凶である王女と宰相だった。


敵に捕まればただの処刑だけでは済まされないこの2人は、滅亡寸前の今この状況でいったい何を話すのか———






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ヒサ姫、とうとうこのミョシム城も今日中には落ちそうですね」


「えぇそうね。でも私たちは死んでも負けない・・・・・・・・。そうでしょう?リーヴァス」


「当然です。…ちなみにアレの準備はすでに済んでますからいつでも使用できますよ?」


「まだいいわ。切り札は最後に使うべきでしょう?それに今は1人でも多くの敵を私の手で、私たちの手で葬りたいし」


「わかりました。それではヒサ姫に逆らう愚か者共に天罰を下しに行きましょうか」


「あら?リーヴァス、あなたはいつ神様になったのかしら?」


「私にとって神様はヒサ姫です。ですので神の僕たる私が神様ヒサ姫にかわって天罰を下すのですよ」


「ふふ♪嬉しいこと言ってくれるじゃない。じゃあ私も天罰を下しに行きましょうか♪」


「はい!………と、外が騒がしいですね。何かあったのでしょうか」



ドタドタドタバタ…バン!



「報告します!!」


「ここをどこだと思っているのですか?玉座の間ですよ、扉はゆっくり静かに開き———」



「大将軍ホルスロー様が討ち死になさいました!!」



「「………っ!?」」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



押し寄せる敵兵、慌ただしい城内。


滅亡寸前の状態にあるルブルム帝国の宰相である俺、リーヴァスは玉座の間にて主君の王女ヒサ姫と話していた。

ちなみに正確にはヒサ姫は王女ではなく女帝なのだが、ヒサ姫本人が魔王女という名を気に入っているので王女で統一しておく。


それはさておき、その時、無礼にも急に部屋に入ってきた伝令兵が何を言い出すかと思えば………なんてことだ…。


まさか我が帝国の軍部のトップ、大将軍であるホルスロー殿がこんなにも早く討ち死にするとは…これは予想外だった。


ホルスロー殿は昔から俺達を支えてくれ、ヒサ姫や俺を恐れない数少ない対等な人物だっただけに…これは惜しい。実に惜しい。


だけど嘆いている時間はない。速やかに代理の者を用意しなければ……。


そう思っていると、ヒサ姫が口を開いた。



「………わかりました。ホルスローのことだからきっと最期まで勇敢に戦ったのでしょう。この戦いが終わった後、立派な墓を作らせます」


「は…?」



伝令兵は『何を言っているのかわからない』という顔をしている。


まぁそれもそうだろうな。


兵達にとってはヒサ姫も俺も悪魔のようなイメージしかないのだ。そんな悪魔ヒサ姫が死んだ部下を憐れむなんて想像もしていなかったのだろう。


それにヒサ姫は今、遠回しに『戦いが終わった後も私は生きる』と言ったのだ。こんな状況で生き残る可能性は0に近いというのに。


それがこの伝令兵にとってわけがわからない事なのだろう。


けれど、ヒサ姫と何年も連れ添ってきた俺にはわかる。ホルスロー殿の死を悲しんでいるのは本当だが、立派な墓を〜のあたりは嘘だ。なぜなら—————






———ヒサ姫はこの戦いで死ぬつもりでいるのだから。

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