未完 01

第1話

　横浜市の路上で道路を渡ろうとしていた五歳の子供が左折するトラックに巻き込まれて死亡するという事故があった。被害者は石沢要さんの長男、元樹くん五歳。関係者によると元樹くんは父親と一緒に自転車で散歩中、道路に飛び出し、左折してきたトラックに巻き込まれたという。

　このニュースの見出しはこれではなかった。

　子供を殺された父親、トラック運転手をひきずり出しそのまま殺害。

　本文の最初はこうだ。

　2020年7月4日、目の前で息子をひき殺された父親がその運転手を撲殺するという事件が発生した。

　で、最初の文章につながる。

　僕は記事をさらに読んでいった。

　石原さんはその場に止まったトラックの運転手を引きずり出し、謝罪を要求。半狂乱になってその運転手、前栄司さん二十五歳に殴る蹴るの暴行を加えて死亡させた疑い。死因は脳挫傷。石原さんはその場で暴行の罪でかけつけた警官に現行犯逮捕された。

　僕は横浜市のどこだろうとネットを検索していった。読んだ記事はヤフーニュースで、ニュースのコメント欄は案の定絶賛の嵐だった。日頃のトラックへのヘイトが爆発していた。もちろん、子供をちゃんと見ていなかったことへの非難もあったし、弁護士じゃないのに弁護士面をしたコメントで、気持ちは分かるがこれは傷害致死になるだろうみたいなコメントもあった。

　ヤフーから離れるとコメントも様々だ。ツイッターでもちょっと話題になっていた。とりあえず明日のワイドショーでもネタになるだろう。

　よくやった。不注意なトラックは死ぬべき。殺すばかりではない、殺される覚悟もしておけ。

　子供の飛び出しは予想できない。これは運転手も不幸。

　もうちょっと下品なサイトに転載されると、ニュースの質も変わる。あとコメントの質も変わる。子供は発達障害だったとか、運転手は逃げようとしていたとか、絶対デマだろというような情報が足されていた。

　交差点の写真がニュースに載っていて、コメントで、よく通る道だということで詳細な住所が書かれていた。

　僕はその住所を調べて、スマホにメモとして残した。近くもないが自転車でなんとか行ける距離だ。

　そのときで土曜日の15時過ぎ、梅雨の雨が激しく、熊本などでは球磨川氾濫がニュースになっていたが、神奈川はそれほどでもなかった。僕は念の為ビニールコートをバックパックに入れ、そのほか、スマホとバッテリーなどを持って現地へ向かった。