第57話 くっ! ばくはつしろ〜【浅日詩書】
結論から先に言うわね。
「はよ付き合えやっ!」
――――
「どう状況は?」
「今からお昼みたい。ほら」
張り込みの定番、牛乳とあんぱんを取り出しながら私は渡された双眼鏡を覗く。
「大きな木の下で、レジャーシートを広げて、あのバスケットは何かしら……あっサンドイッチだわ」
こちとら半額のあんぱんなんじゃい!
と心の中で愚痴を零しつつ状況を観測する。
「シカちゃん、めっちゃ通知来てんだけどどうすればいい?」
「えっと、ちょっと待って私も見る」
女子グループのメッセージ欄を遡ると私が飛び出してから色々議論が交わされたようだ。要約するとこんな感じ。
・双子ちゃんのデートミッションで火がついたのかな?
・いやいやそれ以前から引っ付いてたって。
・初めてのデートは映画館だったらしいよ?
・なんで知ってんの?
・ってかこのメッセ、やえやえ見るんじゃ?
・あの子の連絡先知ってるのにっきゅんだけ。
・あー……
とまぁよくもこの短時間で盛り上がれる事で。
気付けばさっきより人数多いし。
みんな暇なの?
まぁ全人類暇代表の私が言うのもなんだけど。
「みんな状況を知りたいみたいだね」
「だね。あっシカちゃんあんぱん頂きます」
バードウォッチャー翠ちゃんはあんぱん齧りつつ茂みの中から観察を続ける。
「えっととりあえず、『お昼、ふたりで、シートの上、サンドイッチ、悔しいっ!』っと、最後のは消しとこ」
要点だけ纏めたメッセージを飛ばす。
写真も撮りたいけど、もしかしたらバレる可能性を考えて止めておく。なんだかんだ言って八重ちゃんは鋭い所があるから怖いのだ。
「隊長! オシドリに動きあり!」
「なにぃ!?」
いつしかどこぞの部隊みたいな呼び方になっているけど気にしない。というかちょっと楽しい。
翠伍長の横に陣取ると対象のコードネーム:オシドリを観察する。
「あれは何かしら、コロッケかメンチカツか……それを八重ちゃんが持ってきたであろうサンドイッチに挟んで、あっ。八重ちゃんいつもよりいやらしい笑い方してる」
「あれはなんて言ってるんでありますか?」
言われても分からないけどとりあえずアテレコしてみる事に。
『
『そ、そんな四十万さん。言い方がなんかえっちだよ』
『何がえっちなのかなぁ。口で言わないとわからないよぉ? ほら、はっきり言ってごらん』
『し、しじましゃ』
『それとも別の口で聞いた方がいいのかな?』
『べ、別の?』
『うぇへへへへ。女の子にはねぇもうひとつくち――』
うん。
有り得るな。
ていうかあの表情と動きはそうとしか思えない。
「今のアテレコ、グループに流しときました隊長」
「翠伍長ぉぉぉぉぉぉ!!」
私の変態具合が露見してしまう。
いや、今更クラスメイトに取り繕う必要もないかな。ってかそういう事は事前に言ってくれないかな翠伍長。
「隊長、自分もあのサンドイッチが食べたいです」
「この戦いが終わったら、たらふく食べさせてあげよう」
「私、故郷に彼氏残して来たんです。この戦いが終わったら結婚しようって」
「フラグ立てないの」
あと翠ちゃん彼氏いるって嘘だよね?
嘘だと言って?
趣味はバードウォッチングです!
鳥にしか興味ありません!
って言って?
そんな事を続けている内にオシドリ1号が立ち上がる。
「隊長アテレコ」
「あ、ハイ」
『十蔵くん、私お花摘みに行ってくる』
『う、うん』
『お花摘み一緒に行く?』
『い、行かないよ! まだそのネタでからかうの?』
『うぇへへへ。鉄板ネタだからね』
『もう! 早くしないと漏れちゃうよ』
『漏らして欲しいの? 十蔵くんそんな趣味が』
『ち、違うよ!』
うん。
有り得るな。
そうとしか思えなくなってきた。
「今のもグループに……」
「あ、ハイ。もうお好きにしてください」
見るとレジャーシートの上にオシドリ2号がキョロキョロと1号が去った方を見ている。そして誰にも見られてないのを確認してから自分のバッグから何かを取り出す。
「隊長アレはなんすかね」
「う〜ん。ここからじゃよく分からないけど何かの包みに見えるわね。お店のっぽいけどわからないわ」
「私に任せて。このハイパーメガカメラでシワの数までくっきりはっきりと、試しに隊長の」
「止めなさい」
オシドリ1号が居ないなら気付かれる心配はない。翠伍長はオシドリ2号の全体像と手にと持った包みをフレームの中に納めた。
「う〜ん、やっぱりわからないわ」
「私もわかんにゃい。とりあえずグループに上げて包みが何か解析してもらおう」
メッセージを見るとこれまた会議が白熱していた。ってかこれもうクラスの女子全員いるんじゃない?
今のみんなの議題は『理想のデートスポット』になっていた。そこに翠伍長が撮影した写真を送ると直ぐに答えが返ってきた。
いつも艶々している艶神さんからお手紙が届きました。
冗談はさておきヘアオイル。
という事はアレはオシドリ1号へのプレゼント?
私は少しだけ今の状況を整理するとパズルの最後のピースが嵌る感覚に襲われた。
「これ……告白するんじゃない?」
私の呟きをメッセージに打ち込んだ翠ちゃんも固まっている。
女子全員:なん……だと?
そこからの記憶はあまりない。
夏が近い事もあって外気温も精神気温も上昇していた気がする。
偵察の私達には「なんとしても言質を取れ!」と命令が下されオシドリ達の一挙手一投足を逃すまいと血眼になった。
そして夕暮れの河川敷でオレンジに染まるふたりはお互いに手を繋いでいた。
「まだか……まだなのか」
「焦るな隊長」
いつしか立場が逆転した私と翠伍長はその時を待ったのだけど。
「これ、良かったら受け取って欲しいんだ」
「いいの?」
「うん、今までの感謝というかなんというか」
「うぇへへ。ありがと十蔵くん」
to be continued
と字幕が出てきそうほど気になる終わり方だった。
画面の向こう側の女子達は恐らくこう思ってるだろう……ばくはつしろ!
ごめんなさい、私が思いました!
――――――
「だっはぁ〜。消化不良なんですけど」
その後私達は解散して家に帰った。
お風呂に入ってご飯を食べて少しだけ家族とお喋りして自室に戻ってベッドに倒れた。
「にっきゅんさぁ……後は言うだけだよ? あんなにラブラブ光線出してるだからさぁ普通わかるよね? いやまぁにっきゅんは普通じゃないか」
大きな独り言が部屋に響く。
私はこの渦巻く感情を誰かに聞いて欲しくてスマホを手にする。
先刻まで盛り上がっていた野次馬達は自分のテリトリーに帰ったようだ。今はポツポツとたわいの無い会話を続けている。
浅日:そういえば八重ちゃんに連絡したい場合はみんなどうしてるの?
浅日:ラブレターかっ!
踊場:シカちゃんは?
浅日:私はオビ→にっきゅん→八重ちゃんって感じかな。
艶神:
木目肌:くすくすくすっ。隊長さ〜ん次のターゲットは隊長さんですかぁ?
くっ! この野次馬どもめ!
別に私はそんなつもりじゃ。
ただ、オビとにっきゅんが仲良いから少しでも話す機会をだね。
少しだけ墓穴を掘った事を後悔していると今まであまり参加しなかったとある人物が衝撃的な事を切り出した。
その提案に私は興味本位でオッケーの返事を打とうとした。しかし次のサメちゃんの一言は私の指を置き去りにしていた。
鮫島:――四十万八重嬢の家で
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