第55話 期待通りのガーター
アミューズメント施設で
皆来たっていうのは比喩表現じゃなくて本当に皆来たんだよ?
だって
「や、やいっお前! その子から離れろっ! その子は俺達の親友なんだっ!」
先頭で啖呵を切るのは僕のお友達の
「「…………」」
僕と矛先くんは時が止まったようにフリーズしていたと思う。それを否定と取ったのか丸味くんは続ける。
「い、いいか。その子に手を出したら髪の長い阿修羅がただじゃおかないぞ! アイツに連絡すれば光速より速く来るんだからな」
髪の長い阿修羅ってもしかして……そんな事本人の前で言ったら丸味くんがただじゃおかないと思うけど。
「「…………」」
状況を飲み込めない僕と矛先くんはお互いに顔を見合わせる。
「
丸味くんは僕に手を差し伸べてくれてるけど今の一言で分かってしまった。僕は少しだけ冷や汗を掻きながら隣の矛先くんに再度目線を送ると、
――ブチッ
彼が阿修羅になっていた。
――――――
「あははははっ! 腹いてぇ」
「チッ、笑い事じゃねェんだよ」
僕達は今、ボウリング場に居ます。
なぜ矛先くんが不機嫌かというと。
クラスメイト男子エー君の証言
「にっきゅんがヤンキーにカツアゲされてる! みんなに知らせなきゃ」
クラスメイト男子ビー君の証言
「長髪で目付きが悪い、きっとヤバい奴に違いない」(偏見あり)
クラスメイト男子シー君の証言
「相手は1人だ! 皆でかかれば怖くない」
クラスメイト男子ディ君の証言
「でもアレってほこさ……んぐっ」
クラスメイト男子全員の証言
「そっちの方が面白いだろっ!」
というようなやり取りがあったらしくそれを聞いた矛先くんの機嫌が少しだけ悪くなった。
「ま、まぁでもデコピンで許してくれる所は成長したんじゃない?」
丸味くんを筆頭にクラスメイト達の額には赤い模様が刻まれた。
「ったく、つべこべ言ってねェでさっさとチーム分けしろ。店に迷惑だろうが!」
矛先くんの言葉にニマニマした顔のクラスメイト達は「店に迷惑とか、くすすすっ」「ヤンキーは絶対言わないよな」「心は乙女」とからかうものだからもう1発デコピンを貰ってた。
僕達のクラスは女子20人男子20人の40人クラス。そしてここに居る男子は僕を含めて20人。
みんなゴールデンウィーク暇だったのかな?
と思わなくもないけどこうして集まれる事に喜びを感じておこう。
「よし、じゃあ皆集まった所で始めるか!」
司会進行は丸味くんが行うようで僕達はボウリングシューズに履き替えて集まっていた。
「各チーム2ゲームやってスコアトップの奴が決勝に進む。優勝者には学食のスペシャルメニュー券が待ってるぞ!」
その言葉に「おぉ!」と盛り上がる会場。
「んで、1番スコアが低いヤツは」
「「「「ゴクリッ」」」」
キランッとした歯を見せながら丸味くんがいやらしく笑う。
「恥ずかしい過去を暴露してもらう!」
ドヤッとした顔で心にくる事を言い出した。
「くっ、俺の中二時代を思い出せだとっ?」
「やめろ! 暗黒世界に行くにはまだ早い」
「ボク、運動苦手なんだけど……」
「心配すんな。いざとなればノーガーターモードで」
なんて聞こえて来たけど、僕はワクワクしていた。
「なんだ二句森、楽しそうじゃねェか」
「うんっ! こんなにいっぱいのお友達で遊んだ事無かったから嬉しくて」
僕の言葉を聞いていた周りのクラスメイトがわしゃわしゃと僕の頭を撫でる。
「わっ、ちょっ、なになに?」
「へっ。いつでも呼べよな」
「そうだぞ。このクラスの雰囲気を作ったのはにっきゅんだかんな」
「じゃないとこんな日に集まらねぇって」
「みずくさい事言うなよな」
喜んでいいやら恥ずかしいやらの感情があるけど、こうして僕達の男子会は始まった。
5人1組で全部で4組。
僕の組の友達を紹介するね。
矛先くん。
僕の5人。
矛先くんは言わずと知れたお兄さんみたいな雰囲気だけど、他の3人とはまだあまり話した事が無かったと思う。
「よ、よろしくお願いします。実はボウリングやった事なくて」
「そんなに緊張しないでにっきゅん。ボクも苦手なんだ」
僕の言葉に返してくれたのは絵心くん。彼は芸術家で自宅がアトリエ(?)っていう場所らしくて絵を描く事がとても上手らしい。
「ねぇ、それよりボクの提案受けてくれないかな?」
「う、う〜ん」
そういえばあまり話した事は無いけど以前、絵のモデルになって欲しいとお願いされた。その時は色々いっぱいいっぱいだったから保留にしたけど、どうしたものか。
「苦手同士、ボウリングで決めるっていうのはどうだい?」
「あっ、媚零くん。それいいね」
助け舟を出してくれたのは媚零くんだけど、僕が負ける未来しか見えないんだよねぇ。そんな会話を続けているとスタートの合図が聞こえた。
先陣を切るのは矛先くん。
僕は先頭の席でそのフォームを見て勉強しようとするけれど。
「ところでにっきゅん。昨日四十万さんとデートしたんだってね。何か進展はあったのかい?」
「えっ!?」
声をかけてきたのは芦長くん。
なんで知っているのかと思って咄嗟に顔を見るけど、どうやら媚零くんや絵心くんも知っている様子。聞き耳を立てるというか、僕の側まで来てズイズイと迫ってきた。
「あうっ、えっと……」
こうして何かを聞かれる事が今まで無かったから何を答えればいいのやら。とりあえず自分の行動を思い出してみよう。
「待ち合わせをして、それから」
あの時は隣にいた人が男の人だと思って落ち込んだなぁ。そして勢い余って、
「そらから……告白を――」
ガタンッ
ガタンッ
ガタンッ
ガタンッ
――ガーター
――ガーター
――ガーター
――ガーター
各レーンに並ぶGの文字は芸術のようだ、そしてクラスメイト達が僕の方へ大挙として押し寄せる。
「「「「こ、告白したぁぁぁぁっ!?」」」」
えっと……まだしてないんだけど。
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