第54話 初めての男子会

 ゴールデンウィーク2日目

 僕はソワソワした気持ちでアミューズメント施設にいる。


 昨日の四十万しじまさんとのデートとはまた違った緊張感を抱きながらスマホの時計を何度も確認していた。


「よォ二句森にくもり、早いな。まだ30分前だぞ?」

「あっ! 矛先ほこさきくんおはよう」

「おう。おはようさん」


 なんだか怖いお兄さんに話しかけられたと思ったらクラスメイトだった。いや、クラスメイトではなく僕の大切なお友達。


「服装について色々教えてくれてありがとう! お陰で昨日は楽しかったよ」

「楽しめたならいいさ。ちなみに四十万に食べられたのか?」

「ん?」


 食べられたとはなんだろう?

 もしかしてサンドイッチの事かな?

 でも、今の聞き方は少し違うような。


「すまん、忘れてくれて……俺の早とちりだ」

「うん。それならいいけど」


 美味しく食べたって言いたかったけどなんだか言わなくて良かった雰囲気もある。


「僕も早く着いたと思うけど、矛先くんも相当だよ?」

「ん? あァ俺はな、いつも早起きなんだよ」


「そうなの?」

「あァ、早朝にランニングとかしてるからな」


 へぇ!

 だから矛先くん体が大きいのか。


「僕も早朝ランニングしたら矛先くんみたいになれるかな?」

「俺みたいになりたいのか?」


 矛先くんはなんというか、いい意味で高校生には見えない風格を持っている。それが何なのか言葉にしずらいけど大人として必要な何かだと思う。色んな人がよく言っている「大人の階段」ってやつなのかな。


「早く大人の階段登りたいっていうのかな?」

「俺はまだ登ってねェ! 何言わせんだっ! ってか何言ってんだよ」

「ごごご、ごめんっ!」


 矛先くんが大声を出したので反射的に謝ってしまう。


「いや俺の方こそすまん、別に怒ってるわけじゃねェんだ」

「う、うん」


 矛先くんは僕の顔を少しだけ見つめた後、


「二句森はこういう奴だっていうの忘れてたぜ」

「どういう事?」


 彼は僕の問いには答えず左手で僕の頭をポンポンと触りながら続ける。


「大人の階段登りたかったら四十万に言えばいい」

「四十万さんに?」


 そして半分笑いながら微妙な顔で、


「あァ。アイツに言えば嬉々として手伝ってくれるだろう」

「コーディネートとかって事?」


「コーディネートっつうか、シュチュエーションとかムードとかそんなんだろ」

「う〜ん。イマイチわからないや」


 そんな僕の返答にとても優しそうな顔になる。


「今は分かんなくていいさ。その時が来たら言ってみな」

「う、うん」


 僕に兄さんがいたらきっとこんな感じなんだろうなと思えるような安心感が矛先くんにはある。


 入学してすぐは凄く怖い印象だったけど、話してみると面白くて、クラスメイトの面倒を陰ながらサポートして、僕にだって優しくしてくれる。そして今日だって彼のお陰でこうして集まる事ができたのだから。


「矛先くん」

「ん?」


「今日誘ってくれてありがとう」

「おゥ」



『今更だが、男子達で遊ばないか?』



 ゴールデンウィークの少し前、矛先くんの提案でスケジュールが組まれた。


 というのも『黒神くろかみシスターズ彼氏騒動』の時、テーマパークで遊ぶ僕達の姿があまりにも楽しそうだったという事で、クラスメイト達がブーブー言っていた。

 元はと言えば彼ら彼女らが挙手しなかったのが悪いと矛先くんが切って捨てたのだが、そのフォローを彼自身がやっているのだ。


「とんだマッチポンプだぜ」


 とは彼の言葉で色々忙しく働いてくれた。



「本当にありがとう」


「……何度も言わなくていい」



 少しだけ彼の頬が赤く染まっていた。

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