第40話 クラスは歓喜した。そしてゾンビになった
僕はこの状況から逃げ出したくなった。
「おっ! この
「ほら見て、振り向いた横顔がまだあどけないわ」
さっきまでは
「あっ!
――ポチッ
「う〜ん。遊園地の背景も悪くないが、ひまわり畑だったら尚いいな」
「「「「確かに!!」」」」
「自分の身長と同じくらいの高さのひまわり見ながらさ『僕まだ成長期だもんねっ』ってムキになってるところ想像してみ?」
「あぁ……」
「なんというか」
「うん」
「「「「最高だなっ!!」」」」
僕は全然最高じゃないよっ!
「ちょっとシカちゃんその写真で止めて」
――ポチッ
「ここの上目遣い。家のダックスフンドが悪さしちゃった時に似てるんだよね」
「うぇへへ。この場面は次のアトラクションに早く行きたくて私の靴を踏んじゃった時の『ごめんね』だね」
四十万さんの詳細な説明に質問した女子生徒が「うはぁ。たまんないわ」とため息を漏らす。
「手を引いたらちょこちょこっと小走りになる所が萌えポイント」
「「「「くはぁっ」」」」
女子達が崩れ落ちている。
一体僕はどうすればいいのでしょうか。
「なんかアレだな。同性なのにこの胸の高鳴りはなんだろうな」
「だな。二句森にきゅんときちまうぜ」
「これが……にっきゅん?」
「それ私が付けたあだ名だよ! とらないで〜」
とよくわからない問答を始める。
「コホンッ。以後二句森くんを呼ぶ時は"にっきゅん"と呼ぶように」
「「「「ラジャー!」」」」
僕の目の前であだ名が決まった瞬間だった。
「さて、本題を忘れてるだろうからサクッと入るわね。私達が黒神シスターズの彼氏と会ったのはここよ」
今までが本編だったのでは?
と思わなくもないけれど浅日さんの言葉と共に映し出された写真を見てクラス内に緊張感が増す。
「いよいよか」
「俺、もうお腹いっぱいなんだけど」
「そう言うなって」
胸を摩っていたクラスメイトは意を決したように浅日さんの言葉を待つ。
「黒神シスターズの彼氏は――」
教室の中をゴクリという音が支配していた。そして何故かドラムロールの効果音が鳴り響きスクリーンが明暗を繰り返す。
「この人よっ!!」
バンッ!
と映し出された写真には黒神さん達の間に挟まれる
「「「「――っ!?」」」」
驚きで声を失ってるように見える。
司会の席の
「お、あ……あう」
沈黙に耐えかねたクラスメイトが何かを言おうと口を開くけど肺からの空気しか盛れだしてこない。
まるでさっきまでのお祭りムードが一変、お通夜に早変わりしたような静けさだ。
「秘技・手のひら返し」
浅日さんが小声で呟いた言葉を僕は聞き逃さなかった。そして改めて思うのだ、女の子は怖いのだと。
現実時間は時計の秒針が二周するぐらいだったけど、みんなの体感時間はそれの倍はあったのではないだろうか。男子達はさっきまで空気と化していた僕と
「じ、事実だ」
恐らく浅日さんに言わされたであろう言葉を丸味くんが零すとクラス内は阿鼻叫喚の様相をしめす。
「嘘……だろ」
「あの悪魔大元帥が彼氏?」
「落ち着くんだみんな」
「でも待って。一人しかいないような」
「あと一人は誰?」
「でも写ってないよ?」
写真には黒神さん達と神月先輩だけ。
察しがいい人なら気付くのだろうけど、僕が口を開こうとすると隣の四十万さんが口元に手を当てて制止する。
「私達の苦労を分けてあげよう」
少しだけ黒い四十万さんになってる気がする。
「つまりアレだろォが。黒神達の彼氏が一人って事だァ」
今まで黙っていた矛先くんが現実を告げる。
「それってつまり」
「アレか?
「嘘だぁぁぁぁぁぁ!」
矛先くんの口撃はクリティカルヒットしてゾンビ化してる男子達のHPをドンドン削る。
「まだだ、まだ確定していないっ!」
立ち上がろうとする亡者さんに浅日さんが
「この写真、いいと思わない?」
――ポチッ
スクリーンに映し出されたのは黒神さん達の幸せそうな顔。そしてもうひとつ、神月先輩がふたりのお腹を撫でている場面だった。
「「「「がはっ!」」」」
男子達は黄泉の国へ還りました。
「あっ、ちなみにウマ会長は黒神シスターズの彼氏じゃないらしいわ」
とって付けたような浅日さんの言葉を誰も聞いちゃいない。
「なるほどなァ。新しい生命か……そりゃァ彼氏じゃなくて夫婦だもんなァ」
「「「「「げふぁぁぁぁぁっ」」」」」
呟かれた矛先くんの声だけが黄泉の国に響き渡りました。
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