第33話 あれってもしかして


 

 流れるような人波の中

 流れる時間に抗うべく

 藻掻く僕達はきっと

 青い春のただ中にいる




 ――――――――


十蔵じゅうぞうくんに濡らされちゃった」


 言葉だけを聞けば全責任が僕にあるかのように告げる彼女、四十万八重しじまやえさん。

 しかしながら僕だって時にはガツンと言えるって事を証明しなくちゃ! 

 一言二言言ってやるんだ!

 小言ぐらいなら許してくれるよね?

 いや、あの……ちょっとぐらいなら。


「八重ちゃん、からかうのはそれくらいにしなよ。二句森にくもりくんしょんぼりしてるじゃん」

「うぇへへ。ごめんごめん」


 たしなめてくれる浅日あさひさんの援護射撃のお陰で彼女から謝罪の言葉を貰う。ガツンと言うどころか情けないって思われたかも。


「だ、大丈夫だよ泣いてないから!」


 咄嗟に出た発言に心の中で泣きたくなった。


「それよりも腹減らねぇか?」

「確かにそうね」


 気を利かせてくれた丸味まるみくんに感謝しつつ食事処を探して園内を歩き回る事にした。

 アレ? 僕達はなんでここに来たんだっけ?


 とりあえず目に見える場所の店外にあるメニューを覗くと四十万さんじゃないけど「うぇへ〜」と声が漏れる。


「わかっちゃいたが」

「そうね」

「なかなか」

「いいお値段だね」


 最後の僕の声に頷く皆さん。

 アミューズメントパークの採算は食事とお土産屋で成り立っていると思える程なかなかの金額なのだ。


「どうするよ。ペアチケットで安く入れたのはいいが、飲み食いするだけで散財しちまいそうだぜ」

「そうねぇ。この後いくら使うかも分からないからなるべく節約したいわね」


「そう言えばなんで節約しなくちゃいけないんだっけ?」


 四十万さんの問いかけに一斉に首を傾ける僕達。ふと浅日さんが自分のスマホに連絡が入ったと言って取り出すと「……あっ」と何かを思い出したような表情になり。


「私達の本来の目的ってさ」


「「「目的って?」」」


 僕達に見えるようにスマホを見せると。


『今から食事するから近くに居るなら見に来て』

 By 黒神くろかみシスターズ



「「「「…………」」」」



 沈黙がその場を支配すると言う慣用句があるけれど、まさしく僕達の周囲はそんな感じだ。


「えっと、楽しすぎたからね」

「だな。言われてみりゃなんか忘れてるなって思ってたんだよ」


「これは私のミスだわ」

「私達のってことでいいじゃない」


 こういう事ってよくあるよね。

 コンビニに行った時も目移りしちゃって目的の物は帰ってから気付くっていう。


「気を取り直して、黒神達がいる場所に行こうぜ」

「そうね」


「彼氏を見に来たんだもんね」

「うん」


 そんな訳で当初の目的を思い出した僕達は指定された場所に行く事にした。




 ――――――


「高っか!!!」


 なし崩し的に入った場所で浅日さんが今までにない表情をしていた。

 さっき見て回ったお店の値段より1.5倍ほどの料金設定の場所だった。


「これは流石に金が溶けるな」

「うん」


 高校生の食事代を少しだけ通り越した金額に僕も丸味くんもたじろいでしまう。


「こうなったら総力戦よ。みんなの手札を見せてちょうだい」


 浅日さんは金策の申し子のような目になり、テーブルの中央に集まるよう顔を合わせる。


「私の手札はイチヨウさん1体とヒデヨさん3体ね」


 日本銀行が発行する強力な手札を彼女は見せる。それを見た僕達はお財布の中から各自の最高戦力を召喚する。


「俺はヒデヨが6体」

「僕はヒデヨさん5体」


 丸味くんじゃないけれど出来れば守備表示で温存しておきたい。

 そして最後に四十万さんがニヤっとしながら机に召喚したのは。


「ユキチちゃんを攻撃表示! 戦闘力1万っ!」


「「「うわぁぁ!!!」」」


 僕達はその威光に恐れおののいてしまった。


「八重ちゃん、もしかしてお小遣い多い子?」

「ユチキなんてお前、お年玉でも見ねぇぞ」

「す、凄い」


 三者三様の言葉に彼女は得意げに口を開く。


「彼氏とデートするって言ったらお父さんが失神した」

「でしょうねっ!」


 素早くツッコミ浅日さんに僕の顔が赤くなる。

 そんな、四十万さん僕の事彼氏だなんて!

 まだ早すぎるっていうか、心の準備が。

 告白もしてないのにそんな紹介をしてるなんて。


 もはや隣の彼女の顔を見れないでいると最後にこう付け加えた。


「黒神さん達がってね……うぇへへ」

「…………」


 自惚れてごめんなさい。


「あれ〜? 十蔵くん顔が赤いぞ〜。どうしたのかな〜?」

「う、な、なんでもないよっ!」


 午前中は色々と良い雰囲気? だったから余計に心にくるものがある。だけどこれが彼女の通常運転だったと思い知らされる。


「本番はまだ先だぞっと」

「え?」


 ボソッと言った言葉の意味を彼女は教えてくれなかった。


 とりあえずこの場は節約するという事にして、パーティメニューを皆で割り勘する事で乗り切る作戦にした。


 僕達は黒神さん達を見つけようと店内を見渡すけどその姿は無い。


「もしかして店間違えたのか?」

「いや、指定された場所はここのハズなんだけど」

「あっ……あれじゃない?」


 店の入口を見ていた四十万さんの一言で僕達はそっちを見る。そこには――



「あっ」

「おっ」

「ほぅ」



 3人にとっては予想外な……そして僕にとっては予想通りの人物がふたりに連れられていた。


「「「ウマ会長だ」」」


 そうです。

 ここはウマウマランドです。


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