第29話 もしかしてダブル……

 四十万しじまさん浅日あさひさん丸味まるみくんに僕を加えた4人で黒神くろかみさん達の尾行をする。


「ってか本人公認の尾行ってどうなんだろうな」

「アンタ風情も何も無いわね。こんなのは雰囲気が大事なのよ」


 丸味くんの現実的な意見に浅日さんはヤレヤレと言った顔をする。


「確かに詩書しかくの服、いつもより暗めだよなぁ」

「どう? 探偵みたいでしょ?」

「へっ」


 そう言えば以前ふたりは幼なじみ(通称ホの字)って言ってたもんね。僕は少し憧れを持ってふたりに聞いてみる。


「ふたりってご近所さんだったりするの? 今朝も起こしに行ったって言ってたけど」


 もしかして物語で良くある家が隣同士ってやつなのかな。そんな期待を込めた質問に丸味くんは少しバツが悪そうになりながら。


「なんつーか……アレだよ。同じマンションなんだよ」


 対して浅日さんは敵将を討ち取ったように勝ち誇る。


「そうなのよ! コイツん家の真上に住んでるの。という事で私の方が偉いってワケね!」


 なるほど。

 ちょっと予想してた関係と違ったけど、それはそれで楽しそうだよね。


「という事はふたりはひとつ屋根の下なんだね! いいなぁ〜」


 商店街に住んでる僕としてはマンションってだけで羨ましく思う。同じ建物に一緒に住んでるんだからね。しかし……


二句森にくもり……お前さん意味を理解してるのか……いや、そうだったな。二句森だったな」

「二句森くん。初球からホームラン打たないでくれるかしら」


 何故かふたりは盛大にため息を吐いて、何かに納得したような顔をする。


「え? えっえ? 僕何かまずいこと言ったかな?」


 オロオロしながら顔を上げると黒髪美人さんは満足そうな顔をする。


「うぇへへっ。十蔵じゅうぞうくんジャストミートだね」


 ペロリと舌なめずりをする彼女は何も教えてくれない。


「もしかして、お花摘みと同じような意味?」


 恐る恐る聞くと彼女は目を細めて耳元へ吐息をかける。


「もっとえっちなヤツだよ。うぇへ♪」


 僕の顔はやってしまった感情と彼女の頬が少し触れた恥ずかしさで真夏の太陽ように赤くなっているだろう。


「ご、ごめんなさい」


 とりあえずふたりに謝った。



 そんな事を話していると浅日さんのスマホに1件のメッセージが入った。


「きたか?」

「うん、ちょっと待ってね……えっと」


 冒頭で丸味くんが言っていたように、今回の尾行は本人公認なのだ。そして浅日さんを連絡役として黒神さん達からどこに行くかの情報が入るようになっている。


「うわっ! ここってもしかして」


 スマホを目で追っていた浅日さんは場所を発見したのか驚いた声を上げる。丸味くんが訝しげに彼女のスマホを覗くと、


「お、お……おぉぉ……あ〜……おぉ」


 と、なんとも歯切れが悪く要領を得ない。僕と四十万さんがお互いに顔を見合わせてると浅日さんは少し躊躇いながら僕達へと画面を見せる。

 そこに書かれていたのは、



「「ウマウマランドに行くウマ!」」



 重なる声が脳に届く。


「ウマウマランドって、確か少し前にリニューアルした遊園地だよね?」

「だね、行楽シーズンは混み合うって言ってた気がする」


 僕もリニューアルする前は何度か行った事がある。小学校の遠足もそこだったな。



 しかし何故、浅日さんと丸味くんは渋い顔をしてるのだろう。その事実はわからないけど、浅日さんに四十万さんが何事か言っていた。


「これって……ダブ……デ……だね?」

「もう八重やえちゃん! そんなんじゃ無いってば! それは八重ちゃん達だけっ」


 珍しく浅日さんが動揺している。


「もう〜。ホントにこのコンビどうにかして〜」


 彼女の叫びはプラットホームを走る電車にかき消された。




 ――――――





 電車で揺られる事数十分。

 僕達は本日のメイン会場になるウマウマランドの前に来ていた。


「行楽シーズンじゃないのに凄い人ね」

「まぁ休日だし仕方ねぇと思うけど」


 ちなみに電車の中も込み合っていた。はぐれるからという理由で四十万さんは僕の手をずっと握ってくれていたけど、正直めちゃくちゃ恥ずかしかった。


「映画の次は遊園地、その次はどこに行こうかなぁ〜。ね?」


 まだ始まってもいないのに次の事を考える彼女はどこか楽しそう。僕も次があるのだと思うとなんだか嬉しくなってくる。


 正直に言うと学校での悪魔召喚祭り? の時に「知り合いのお店に次は僕から誘う」と言った手前、少し情けなく感じるけど普段から上手くいく訳ではないのだ。それならこの降ってきた幸運をありがたく受け取ろう。


「今度はこの前言ってたお店に行こう」


 彼女の目は弓なりになり覚えててくれたんだと言うような短い返事をくれる。


「んっ」



「お〜い、天然2人組〜行くぞ〜」



 さっきの意趣返しのように丸味くんに呼ばれる。皮肉なのかもしれないけど、彼女と一括りにされた事が僕は嬉しかった。そして受付に歩み寄った僕達は、四十万さんと浅日さんの強引さを目の当たりにする。



「「カップルチケット2組っ!」」



 これはいわゆるダブル……



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