第17話 点滅する黄色信号
昨日の事を考えているとなかなか寝付けなかった。
「……いってきます」
「おう! 行ってこい」
「
「え、何が?」
「少し元気なかったから」
心配させたくなくて僕は「大丈夫だよ」と無理やり笑顔を作り玄関を出た。いつもより少しだけ早い出発。
商店街の中を通る時もご近所さんの声に愛想笑いを返すだけになってしまう。悔しいという気持ちをいつまでも引きずっていたくないけれど、あの男の人は僕の中では許せなかった。
仮にもし……告白されてるのが四十万さんだったら?
長い髪で表情は見えず俯いた顔、キュッと裾を握リ締めた手が小刻みに震えてる姿、強引に迫る男の人を前に何も言えない彼女。
その光景が頭をよぎった瞬間、体の芯から焼けるような痛みが僕を襲う。
「うっ……」
身近な人に置き換えたら吐き気を催してしまう。なんで四十万さんを想像したのか考えるけど、僕の交友関係で1番接してきた女の子だからと無理やり納得させる。
「はぁ……はぁ」
気持ちが悪い。
僕の体調か、それとも嫌悪感か、彼女を想像したからか……ほんの少しだけ学校に行くを躊躇ってしまう。あれ程楽しみにしていたこの道も、最近話すようになった
「学校……休もうかな」
高校生になると世界の見え方が少し広がる。
中学の時の先生はきっと良い意味でその言葉を卒業の日に贈ってくれたんだと思う。けれど現実は良い意味ま悪い意味も含まれている、表裏一体の事柄だった。
いい面ばかり見ていたら世界は綺麗なのかもしれない。けれど悪い面も見る事で自分の見識を広げてどう対処するのか考えるのが、社会に適応するという事に繋がるのかも。
「ははっ……"かも"ばっかり」
僕はまだ何も知らない。
あれだけ3人に会長の事を偉そうに語っていたけどそれだってほんの一部に過ぎない。
「僕……何も知らないよ」
俯きながら来た道を引き返そうと踵を返すと、
「今日の気分はロマンティックイエローだよ」
「え?」
頭の中で想像していた暗い雰囲気の彼女とは別の人がそこには居た。
「
「えっと……」
なんでここに?
「復唱するの!」
「い、イエロー?」
目の前の彼女は朝日に照らされてまるで光り輝いているようだ。
「違うよ」
「ろ、ロマンティックイエロー?」
「よくできました」
ふんわりとした石けんな匂いが風に乗ってやって来る。
「落ち込んでる?」
「いや、なんでも」
「落ち込んでるね」
「…………」
女の人に隠し事は出来ないや。
それとも彼女だからかな。
「……うん」
「学校行かないの?」
本当は帰りたい。
「……」
「私もサボろっかな」
「えっ?」
そんな事はしないで!
僕の心が少しだけ弱かっただけだから。
「ねぇ十蔵くん」
「なに?」
「もしあの時、あの女の子が私だったら……キミはどうした?」
「っ!!」
その言葉は唐突で、さっきまで考えていた光景が再びフラッシュバックする。
「僕は……」
会長みたいに飛び込めただろうか?
デートの時の四十万さんみたいに盾になれただろうか?
できるなら守ってあげたい!
けど弱いままの心じゃ彼女どころかきっと誰も救えない。
俯いたまま無言になる僕に彼女は幻滅しただろうか。目を合わせる事もできず早く時間が過ぎれと願う。
「……形は違うかもしれないけれど」
何も言えない僕に彼女はその場に立ったまま一歩僕に近付く。
「形は違うかもしれないけれど、十蔵くんは助けたよ」
そんな事ない!
きっと僕は一歩も動けない。
四十万さんがまた一歩、僕に近付く気配がする。
「十蔵くん。この学園の受験の日って憶えてる?」
「受験の日?」
突然の話題変換に僕は顔を上げてしまった。改めて彼女を正面に見た時、ふと既視感がよぎった。
「そう、受験の日……雪の降るしきる日……電車が止まった日……そしてキミが遅れた日」
「……なんでその事を」
あの日の事を僕は忘れない。
大事な試験日だったから、いつもより早起きして近くの神社にお参りに行ったんだ。そこで僕はひとりのお婆さんと出会う。
「ロマンティックイエローの気分なの」
一陣の風に乗って彼女の髪が舞い上がる。その隙間から見える太陽が点滅信号のように僕の瞳に映り込む。
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