第8話 捕食者

騒ぎを聞きつけ、扉を開ける。

何か人がやたらと逃げ回ってるけど、相当ヤバイ魔物が侵入してきたのかな?


槍を抜いて迎撃に入っている衛兵に混じる。

辿り着いた先には全長6mの超でかい猿がいた。


「これはでかい。しかも此奴、僕の居た森にいた奴じゃあないか」


登場はしていないけど、この魔物は「ギガントエイプ」という猿の魔物だ。


「グォアアアアアア」


おたけびで周りの衛兵たちは吹っ飛ばされる。あれ人間に対して物理判定があるんだねぇ。


「ゴガアァァァァァ!!」


「……」


相変わらずうるさく吠える猿だなぁ。あのせいで多くのスライムが逃げ出して、危うく餓死するところだったってのに……ここまで邪魔しに来るとか、影喰いに恨みでもあるんかねぇ。


「仕方ない。相手をするか」

『だね』


影槍を持ち、ギガントエイプの前に立ちふさがる。


「やぁ、久し振りじゃないか。ここで決着と行こう」


大猿の右ストレートがあいさつ代わりに突っ込んでくる。やっぱ知力の低い魔物って野蛮すぎる。


動きが遅いため、その拳を右手で受け止める。


「!?」


「そんな剛腕、僕に効くと思った?残念だけど、パワータイプの弱点を知らないと思ったかい?」


自分の右手を変化させる。周りから見たら、右手が変形していく様だろう。

僕は「影喰い」だ。自分自身は影で出来ている。姿形は変幻自在さ。


影槍も僕の体に吸収され、その右手が巨大な真っ黒の鮫のような頭部に変化した。


「……『影鮫の牙シャドウシャーク・ファング』。お食事タイムだ」


影鮫の口が開き、ギガントエイプの剛腕を噛みちぎった。


「!?!?!?」


「うん、不味い。これならパスタを食べた方が美味しかったよ」


ドクドクと噛み千切られたところから落ちる大猿の血液、ギャラリー全員はドン引きしていた。


「お、おい」「間違いない、影喰いだ……」「絶滅したんじゃないの…?」


え?僕の種族、絶滅してんの?悲しいなぁ、それじゃあ自分が最後の生き残りみたいなもんじゃないか。


影喰いは不死の生物で、影ある限り何度でも生まれてくる魔物。僕のような知識があるかは不明だけどね。


「腕が食われたけど、まだやるかい?僕が君なら逃げるを選択するよ」


「グガァァァァ!」


おたけびをあげる……となると引く気はないという事か。なら確実に仕留めなきゃね。


右手を元に戻し、コモンスピアを取り出して構え直す。


「来なよ。君の攻撃はもう通じない。いい加減諦めるんだね」


軽く煽る。いわばヘイト稼ぎだが、他に何をしてくるやら。


「……来ないならこっちから行くよ!」


槍を剣の下段持ちのようにして突っ込む。相手は片手が無いから避けるのは容易い。

あっという間に懐に入り、胴体を切り上げる。


その時だった。


バキン!


「あ、コモンスピアが……!」

『ボクの槍が!!!』


どうやら硬い皮膚を斬った時に力が入り過ぎて折ってしまった……。

しかも綺麗に真っ二つになったし……これ影槍以外の人間の武器がないぞ……。


『そうだった……ガタが来てたのすっかり忘れてた!』

「え、聞いてないよソレ!?」


どうしよう、武器がない。だからと言ってあの拳は連続で扱えるもんじゃない。


数秒間、辺りを見渡す。武器を持つ人間はいない。っていうか人がいない。

参ったな。これを使うしかないじゃないか。


「こうなったら最終手段を使う」

『さ、最終手段?』


一度影化する。まずは相手の視界から消え、近くの影に潜り込んだ。


『ど、どうするの?』

「まぁ見てなさい」


目標を見失った大猿は辺りを見渡し、僕を探そうと暴れる。

後ろに振り向いたとたん、僕はギガントエイプの影に入り込み、影を肥大化させていく。


「!?」


異変に気付いたのか、下を見る。遅いがね。

肥大化した影は次第に巨大な沼のように広がっていく。


「さて、今回は丸呑みとしよう」


広がった影の中から巨大な口が出てくる。この口は鮫とは違い、牙は無い。その代わり、あらゆる小さい生物を丸呑みにする海の巨大生物の名を冠した影の口。


「【影王鯨キングシャドウホエール】」


超巨大な鯨の口がギガントエイプを飲み込んだ。

その数秒後、元の人型に戻る。


「ご馳走様、不味かったけどね」


その時、妙に力がみなぎった。


「これがレベルアップか。ありがたいな」


恐らく、あの大猿の魔力を吸い取って、あがったんだろう。まぁ、僕が強くなりすぎることはないと思うが。



あの襲撃から二日後、僕は何故か、衛兵たちに呼ばれた。

どうやら、あの魔物はここら近辺で暴れまわって奴で、危険度はAだったらしい。

その魔物がDランクの魔物冒険者に退治されるのはおかしいという事らしい。


当然っちゃ当然か……。


「本当に倒したんだな?」

「倒したというより食べたんだけど」(丸呑みで)


番兵の長はため息を吐きながら、事情を話す。運よく、僕の捕食の場を見てしまった者がいたため、その人物はトラウマになったらしい。


「武器が折れちゃったし、それが何よりの証拠だよ」

『ボクの槍がぁ……』(しくしく)

(だまらっしゃい)


「そうか……この事は本部に伝えておく。よくやったカゲミチ殿」

「礼よりもいい武器屋はないかなぁ?武器壊れちゃったから新調しないといけないし」

「それなら『火薬庫』という店に行くといい。いい品ぞろえだぞ」


お?ホントかい?


「資金はまぁまぁあるから、槍とか買えればそれでいいし」


それで石槍とかだったら怒るけどね。


その後、報酬としてかなりの大金を手に、火薬庫に向かう事にしたのだった。


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影の魔物がダンジョンを脱して外に出てきたそうです ヒラン @daikaru

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