第5話 虐めへの決着

「先攻は譲るよ」


軽く指をちょいちょいと挑発すると、バイドは「じゃあ行くぜ!」と言って地面を蹴る。初手からの突撃は自殺行為だと思うんだけどなぁ。


「これは避けれるかなぁ!?」


常人なら早く見える剣技、見習い剣士なら呆気なく斬られるだろう。けど僕にとっては……。


「は?」


ええ……何こいつ。すごい動きが遅い。


「あらよっと」


僕はひらりと突撃を躱して、後頭部を素手で叩く。


「てめぇ……俺を舐めてるのか?」


「舐めてるのは君じゃあないのかい?そんな遅い剣技、避けれない訳がないでしょ?」


少し距離を離した後、槍を構える。


「じゃあ、次はこっちから行くよ!」


地面を蹴って、近づく。【加速】の効果で移動速度が上昇する。

最初は一突き、しかし当たる前にバイドの剣に弾かれ、左に逸れた。まぁ当然っちゃ当然か。


「うおらぁ!」


ここまではよかった。ここまでは。


「【再行動】の効果を忘れてないかい?」


「あ……」


槍の一突きと同時に【再行動】の攻撃が来る。次は【追加攻撃】のスイッチが入り、もはや連続攻撃である。


一撃目、二撃目、三撃目、【加速】の効果は移動速度を上昇させるだけじゃない。

一時的に攻撃速度の性能が最大限に上昇し、相手に防御の隙を与えないのだ。


逸れた槍の刃を右へと薙ぎ払うように槍を振る。

バイドは跳躍して躱す。


「残念だったなぁ!」


残念だよ。君がね。


「じゃあ、これはどうかな?」


急遽、片足をトン、と地面につける。

すると自分の影から黒い槍が生成され、二槍流になる。


「【影槍】」


影槍。僕の能力で、影から槍を生成し、武器として扱える「影喰い」の初歩的な能力だ。一応、暗殺者の能力にあるんだけどね。


「てめぇ!卑怯だぞ!!」


「これが僕の新しい戦術だ」


思いっきり腕力を魔法で強化し、【加速】を組み合わせてできる技。

槍を高速刺突し、それを連続で行う。こうして即席の技が生まれる。


【初槍黒槍しょそうこくそう百花繚乱ひゃっかりょうらん】!!」


影の槍とコモンスピアの連続刺突が襲い掛かり、バイドは苦笑いする。


「こんなの躱せるかぁぁぁぁ!!」


往なそうと剣を振るが、途中で剣が吹っ飛ばされ、バイドが無手の状態になる。

すかさず僕は追撃を入れる。


「ハァ!!」


影槍を上に投げ、降って来るまでの時間まで槍をくるくると手のひらで回す。


次第に大きな風が吹き、横向きの竜巻が生成される。


「【槍竜巻タービュランス】!」


「うおああああああ!!」


バイドが竜巻に当たり、吹き飛ばされる。


この機を逃さずに回した槍を投げ、上へ投げた影槍を片手で受け止め、トドメを入れるべく走る。


「【魔力撃】」


影槍に魔力を込めて、彼が降ってくる地点に立ち止まって、地面に当たる直前に左に薙ぎ払う。


「薙ぎ払い魔力撃!!」


膂力と魔力を組み合わせた物理攻撃が彼の体に直撃し、空高く吹っ飛ばされた。


「覚えてろよぉぉぉぉ!」


「成敗完了!」


ミチル曰く、これは「ホームラン」という物らしい。

僕はこの技名を【ホームランカットバス】と呼ぶことにした。

ネーミングセンスが悪い?名前など所詮飾りだよ。偉い人にはそれがわからないんだよ。




あの虐めから数日、再び話し合いをしていた。

ミチルがそろそろ僕に喰われたことを話し、色々と決着を付けたいと言う事だ。


「いつまでも、ミチルでいる訳にもいかないんだ。この姿はカゲミチの物。好き勝手してるわけにはいかないよ」


『別にいいんじゃないか?僕は飽きないし、君が卒業するまで付き合ってあげるけど?』


「それじゃいつまでも約束を守れないじゃないか……」


ミチルは少しがっかりするような顔をするが、これは事実である。

正直言うと、人間社会もなかなか面白いものだ。人間の欲望、愚かさはよく見かけるが、それに問わず、謙虚な奴もいる。


これが噂の十人十色って奴か。まぁ僕は人間じゃないけど。


『でも、そう簡単に言えるもんじゃないと思うよ?』


「た、確かにそうだけど……でも決めないと駄目だよ!ボクも男だ、言わなきゃ」


どうかね。でも彼の目を見た時、明らかに言おうとしている。

恐らくだけど、言うタイミングを見計らってるんだろう。それがつかめずにいた感じかな?


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