第2話 体慣らしには……ならなかった。

少年を喰らった後、ダンジョンを出るために足を進める。


喰らったとたんに情報がたくさん入ったから少年の情報を教えよう。


少年の名はミチル。アークライト学院の生徒で、槍使いだ。

だから槍を持ってたんだね。これで納得。


次に、彼は昔、異世界からやってきた勇者の子孫らしい。

つまり僕は勇者の子孫を食べてしまったんだ。かなりヤバイ事をしてしまったよ。


まぁ対策は練るけど。


『そういえば、君って名前あるの?』


考えてなかったなぁ。単純な名でも大丈夫だろう。


「そうだねぇ、ガゲミチってのはどうかな?」


『カゲミチ?』


「僕の影喰いの影と君のミチルを合わせた名さ。しばらくはこの名で行かせてもらうよ」


適当にもほどがあるが、これでも考えた方だ。けどまぁ……何かあったら君の名を使わせてもらうがね。


先ずは3階層目のエリア。


ここら辺は【フィールド・オン・エネミィ】、通称FOEという通常の雑魚よりも強い敵がいる。まぁ僕にとっては瞬殺レベルだけどね。


可哀そうだが、手に入れた新しい姿の力の実験台になってもらおう。


それにしても、ミチル君。あのFOEをどうやって潜り抜けたんだ?

隠密系のスキルでも身に着けてたんだろうか?


「こりゃあ、把握には時間がかかるなぁ」


ぶつくさと言ってるとFOEに遭遇した。


「キシャアアアアアア!」


「相変わらずでかいねぇ、君は」


この魔物は「貫通角の大昆虫」というFOEだ。

見た目はすごくでかいカブトムシだね。


火炎と呪いを弱点とするが防御力が高く、弱い前衛職は一撃でポックリと逝く。

その分魔法耐性が無いから、魔法を当てればすぐ落ちるんだけどね。


『ど、どうするの?』


「どうするも何も倒すしかないでしょ?」


影から槍を取り出し、構える。


「さぁ!来い!」


「……」


「……」


『……あれ?襲ってこないよ?』


異変に気付いたミチルが戦いをやめるように僕に呼びかける。


「あのねぇ……仕方ない。[意思疎通]しよう」


意志疎通、魔物と魔物使い、風水師が唯一使える能力で、魔物と会話できる。これを用いた魔物を仲間にする魔物使いが昔はよくいたよ。


僕は一度目を閉じ念じる。少しして目を開けて、話しかける。


「何で攻撃してこないんだい?」


「いやはや、あんたの様な強すぎる奴と相手をしたら、いくら硬くても命が足りないよ……見逃してくれ」


まさかの命乞いだった!?


「どうやって僕が強いと分かったんだい?」


「そりゃあ、人化を得て、武器も持って、こうやって話しかけてきたんだ。魔力が無くても分かる。勝てるわけがない。道具をあげるから見逃してくれ」


どうしよう、これじゃあ実験にならない。

むしろ戦意を削いでしまった。


「わかったよ。道具を置いてどっか行きな」


「ありがとう。では」


そう言って貫通角の大昆虫は道具を一つを落として逃げてった。


『どうだったの?』


「相手はヘタレだったから見逃したよ。可哀そうだったし」


ミチルと会話しながら、落としてった道具を拾う。


「上級甲核玉か、防具を強化するのに使うんだっけ?」


『うん。ってすごいじゃないかカゲミチさん!』


僕にとってはただの玉なんだけど……。

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