影の魔物がダンジョンを脱して外に出てきたそうです
ヒラン
第1話 少年の頼み
昔、この世界のどこかにある魔物がいた。
名は「影喰い」。
危険度がSSSのとんでもない化け物で、食べた生物の姿、能力を得て強くなっていく無形の魔物である。
ある者は、魔王の眷属
ある者は裏の神
ある者は旧支配者と呼んで、恐れた。
しかし、異世界からやってきた勇者や賢者によって対抗策は完成し、着々と影喰い達は駆逐され、今では弱い魔物と認定され、その凶悪な存在は闇へと葬られた。
今では、この魔物の存在はほとんどなく、いつも通りドラゴンや魔族が脅威となっていた。影を喰らう魔物の存在など、もうないのだ。
だがこれはあくまで今まで起きた出来事、この先、この種族の復興劇……いや、冒険記が始まるのだ。
*
ここは禁じられた森林の最深部。その奥で
冒険者も来ないし、山賊すらも近寄ってこない、個人的には良い場所だ。
邪魔はされないし、たまに来るとしても見逃されるから案外此処は寝床としていい場所だ。
今までは、ね。
ある日の事、たまにはスライムでも捕食して腹を満たそうと、少しだけ動く。
「いくぞぉ……」
ずるずると足のない体を近づけ、捕まえようと触手を伸ばす。
ゆっくり……ゆっくりと触手を近づける。一番弱い魔物の類に入るスライムいえど油断はできない。消化液などを所持しており、僕にとっては大変ながら痛いものだ。
「ていっ!」
スライムを触手で絡み付け、無形の口へと運んで食べる。
プルプルとしたゼリーの触感に、微妙なるフルーツの味。たぶん食べたのは「フルータルスライム」だな。美味しい。
味を噛み締めてる時だった。
「ん?」
フラフラと人影がこちらに歩いてくるのが見えた。
服装は変わった服だ。昔は魔導学校の生徒とやらがここを狩場にしていたから覚えている。しかし、見たことない色の制服だ。どこの人だ?
興味深く近づく、僕に気づいた少年は持ってる武器(槍)を落とし、木によしかかった。よく見てみると彼の身体はボロボロだった。
おかしいな。この森にはもう強い魔物はいないはず。何でボロボロになってるんだ?
「君、どうしたんだい?僕でもいいから言ってごらん」
あえて友好的に話しかける。今更ボロボロの人間襲ったところで、罪悪感を感じるだけだ。できれば助けてあげたいけど……。
「ハァ……き、君はボクを襲わないの?」
「いや、今は襲う気はないよ。酷い傷じゃないか。待ってなさい、僕が薬草を持ってくるから―――――」
そういうと少年が僕を止める。
「待って。いいよ。ボクの命は……後わずかだから……」
「?」
後僅か?どいう事だ……?
「一体何があったんだい?」
*
「なるほど。要は学院による虐めが原因でこの森の主を一人で倒してこいと」
「到底無理だよ……この森自体の魔物は強くないけど、道中の魔物でやられちゃって……」
あらら。そりゃあ酷いな。
「ボクにも夢があったよ。あの学院を卒業して、世界中を旅したいって。けど、物事はうまくいかないんだって、思い知らされたよ。ボクは……弱いんだ、って」
少年は涙目になる。それどころか、泣き始めた。
「こんな事になるなら……魔物に食われた方がマシだったよ」
「それでも生き延びてしまったという事かぁ……こりゃあ生き地獄だね」
何で同情してるかって?僕も同じ目に遭ってるからね。本当は僕以外にも影喰いはいたけど、今は僕以外いない。
「それで、魔物さんに頼みごとがあるんだ」
頼み事?人同士の頼み事は聞いたことはあるけど、魔物に頼み事って。
「……ボクを食べて欲しいんだ」
「!!」
あまりにも衝撃な頼みに僕は焦る。少年自ら食べて欲しい宣言何て聞いたことないぞ!?
「ボクには家族がいるけど、もう……限界なんだ。ボクがここで死んでしまえば、友達も家族も、ボクが死んだ悲しみ以外、迷惑をかけずに済むから……」
「待って。落ち着こう。さすがにこれはぶっ飛びすぎてる。君を食べたとして僕に何の利益がある?」
問おうとしたとたん、少年は「あるよ」と即答する。
あるんだ……。
「ボクの姿を君にあげる。これで、悪さをしてもいいよ。ボクはもう、終わりだから……」
あ、あまりにも悲しい!けどいいのか!?
「……じゃあ、最後に君の願い事をもう一度聞きたい。いい?」
「ボクは世界中を回って、有名になりたい。けど、もう叶わないんだ」
「……そうか、じゃあ」
無形形となった僕は大きな口を開け、少年を捕食しに入る。
喰われる間際、少年は僕に言った。
「————ありがとう。影喰いさん」
喰われるのに感謝されるって微妙な感じなんだけど。
パックリと少年を喰らい、胃袋による消化が始まった。消化される少年の記憶、情報は全て僕の記憶に入る。人の姿を真似るにも記憶などが必要不可欠だかね。
喰らった後、僕は体を変化させる。細胞を変化、少年の見た目、着用してる服、武器、能力、魔法や技術。全てにさせて変異が完了する。
喰らう前に少年にそっくりとなった僕は目を閉じ、集中する。
「【
そう詠唱し終えると、僕の耳元に少年の声が聞こえた。
『あれ?ボク死んだはずじゃ……』
「ああ、確かに死んだよ。だが君の魂は僕の体内に縛り付けておいた。僕に喰われて天国に昇れるとは思わないでね」
さて、どうしようか。
少し考えてから少年に相談する。
「ならさ、僕が君の姿を使って有名になるよ。君の代わりに世界を回ろう、その最中、君が他の願いを探してくれ」
『え!?いいの!?』
「ここまでやったんだ。君の敬意を称して、その願いをかなえてあげよう」
先ずは……君の学院に行こうじゃないか。
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