第30話 「チェリー」

「お前、チェリーボーイだろう」

 

 友人は、アメリカンチェリーをくわえながら、いつもからかう。

 

「いい、紹介するぜ」

 

 いつも、僕は遠慮する。心とは裏腹に。

 

「おい、ちょっと 来いよ」

 

 はずかしそうに陰から出て来たその娘と、伏し目と節目が会った。

儀な感じがした。

 

「私、いとこのです」

 

「ぼく、チェリーボーイことです。知絵李と書きます。」

 

「何歳?」

 

「今年で455歳です」

 

「したら、私と同い年ね」

 

「そうなんだ」

 

「私のおじいちゃんは樹齢千歳よ」

 

「すごいね」

 

 会話が弾み、ふたつの樹はからまりあい、ひとつの見事な大木に成長した。

 

「やったこれで、チェリーボーイ卒業だ!」

 

 友人はさくらんぼをくわえ祝う。

 

「おめでとう。お祝いに水をあげる」

 

 天から、久しぶりのという名のブライダルシャワーが降って来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る